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小説という名の日記B(栞機能無し)
19

説明は済んだ。真夜中だろうが暗かろうが構わない。
此処から去れればどうでもいい。
どうせこれで晴翔も納得するだろう。
晴翔の一番は裕進と聖那だ。湖南は邪魔な存在でしかない。
後はこの腕を振り解けばいいだけ。
何故か躊躇いが生まれたが、それには気付かない振りをした。

後ろから抱き抱える腕を解こうと、手に力を込める。
その途端、抱き締めてくる腕の力が再び強まった。



放して。
湖南の声は聞こえた筈だった。
湖南自身、自分の声が聞こえてきた。
何とも情けない声だと思った。

あのアンドロイドは人間に近付いているのに、こんな情けない声の自分は機械になりきれてない。
裕進も晴翔も聖那が一番大事で。
あのアンドロイドに勝てるものは何もない。

放して。再び振り絞った声。

「駄目だ」

重なるように強く放たれたそれは、殊の外大きく響き渡った。
驚いた鳥の羽音が聞こえて消えた。
更にきつく抱き締めてくる腕の意味が分からなかった。



「彼処に居ても裕進さんが嫌がるよ」

「湖南が居なくなれば俺が寂しい」

「よく言うよ。何の義務感?それとも同情?」

「違う、義務でも同情でもない」

「だって僕が居なくても裕進さんと聖那が居るじゃないか」

「けど湖南が居ない」



本当に意味が分からない。
裕進が嫌がるから湖南は出て行く。
それなのに晴翔は出て行くなと言う。
ああそうか、裕進が湖南を嫌がる理由を晴翔は知らない。

他人との関わりを持たない裕進のテリトリーに侵入してきた湖南に、裕進は元々好感を抱いてはいなかった。
そして聖那の恋。
晴翔に恋した聖那を応援する裕進にとって、湖南は邪魔な存在だった。
湖南から晴翔に話し掛けていた訳ではないけれど、きっと聖那の邪魔をする嫌な存在にしかならなかった。

それを知らないから晴翔は引き止める。
裕進と湖南の血の繋がりを知った後も、寂しいと言って引き止める。
けれども聖那の気持ちを晴翔に告げる気はなかった。
だから裕進に嫌われてまで彼処に居る気はないと言い張った。



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あきゅろす。
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