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小説という名の日記B(栞機能無し)
18

抱き締められた儘、地面に座り込んだ。
立っているのもきつかった。
後ろから抱き締めてくる晴翔も湖南と一緒に座った。
暫く二人して息を整えた。

「どうしたんだ?」

静かに問われ湖南は答えた。
今更黙っておく必要も感じなかった。
裕進には結局言えなかったけれど、晴翔にまで言えないという事はなかった。
今更どうでもいい事だった。

「あの人に一体何時まで居る気だって言われたから」

「あの人?」

「裕進さん。僕の父親」

晴翔の腕に瞬間、力が籠もった。



本当は誰にも言う心算はなかったこと。
特に裕進に言う心算はなかった。
それを晴翔に言ったのは何故だろう。
どうでもいい事と思いながら、どうでもよくはなかった。
本当は誰にも言う心算はなかった。
なのにそれを言ったのは、湖南を包む温もりの所為か。違うと思いたかったけれど、そうではないと突き放せなかった。

湖南の父親って・・・どういう意味?
背中から聞こえる小さな声は、夜の静寂の中に沁みるように溶けていった。



「僕の母さんは一度だけ裕進さんと関係を持った。そのたった一度で僕が産まれた」

裕進さんに好きな人が居るのは知ってたんだって。
知っていてどうしても諦められなかった。
裕進さんは凄くその人の事を愛していて、母さんなんか眼中になかったらしい。
それでも諦められなくて関係を迫った。
一度だけ抱いてくれたらもう付き纏わないって。
裕進さんを脅した事になるんだろうね。
一度だけならと裕進さんは母さんを抱いた。
そして母さんは約束を守った。

母さんが約束を守ったのは妊娠したから。
諦められないのに諦める為に母さんが選んだのは、裕進さんの子供を産む事だった。
その為に裕進さんを脅して、母さんの望み通り無事僕が産まれた。

裕進さんは自分に子供が居るって知らない。
僕の存在を知らない。
だからって裕進さんに言う気はないんだ。
言ってどうなるものでもないし。

だけどあそこまで嫌われるとね。
あんな事言われて流石に居座る訳にはいかないでしょ。



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あきゅろす。
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