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小説という名の日記B(栞機能無し)
17

「一体何時まで居る気だ」

歓迎されてない。それは知っていたけれど、明らかに不快だと思われていた。
何も知らない。裕進は何も知らない。
湖南だってこうも長く此処に居ようと思っていた訳じゃない。
ただ一目自分と血の繋がりがある人を見れれば良かっただけだ。

拒絶の眼差しに思わず外に飛び出していた。
視界の片隅、扉が開いて誰かが名を呼ぶ声が聞こえたけれど、走って外に逃げ出した。



たった一人を愛した母さん。
母さんが亡くなってから湖南は一人で暮らしてきた。
立ち退きを命じられた家。家を失った湖南の行く先はなかった。
そんな時、ふと思い出しただけだ。

母さんの愛してた人。
湖南と血が繋がる人。
湖南の存在を知らない湖南の父親。
思い出して会ってみたくなっただけだ。
どうこうする心算は別になかった。
ただ会ってみたくなっただけ。
こんなに長く居る心算はなかった。



「待てっ」

急に腕を掴まれ後ろに倒れ込んだ。
真っ暗に近い森。道もなく月と星が所々に明かりを照らしている。
地面に倒れ衝撃を受ける筈の身体。
何が起こったか理解する間もなく、身体が温かいもので抱き締められていた。

「湖南、危ないだろう」

晴翔の声。晴翔の温もり。
倒れ掛けた湖南を晴翔が抱き締めていた。

湖南を追ってきた晴翔の荒い息。
息の合間に怒りを含んだ声で湖南の名を呼ぶ。

「こんな夜中に一体何処に行こうとしてたんだ」



五月蠅い。何の心算で追い掛けてきたんだ。
義務か、同情か。いや何があったかどうせ知らないのだから、単なる義務でしかない。
夜中は危険だからと、ただそれだけで追い掛けてきた。

「離せ、出てく。もう出てく」

「何言ってんだ。出て行くな」

もがく身体を両腕が放さなかった。
逃がすまいと強く抱き締めてくる。
抵抗しても叶わない。
元々の体力も違う。
嫌だと全身で拒否しても拘束は緩まらない。
体力を使い果たした湖南が抵抗を止めるのも、そう時間は掛からなかった。



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あきゅろす。
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