小説という名の日記B(栞機能無し)
14
「ちくりって事は痛いのかい?」
「痛い?これが痛い?そっか、うん、痛い」
「どんな時に痛いんだ?」
「えとね、晴翔が湖南に話し掛けてた時」
突然出て来た自分の名前に、思わず肩が跳ねた。
何だろう、このアンドロイドは何を言ってるんだろう。
まさかとは思う。
だがその言い方は。それではまるで。
そう思ったのは裕進も同じだったようだ。
ピクリと眉を動かした後、あくまでも冷静に落ち着いた声音で問うていく。
「それじゃあ彼と晴翔が話していた時、ちくりの他にも何時もと違う感覚はあるかい?」
「うん、此処を掴んだらこんな感じかなって思う」
「さっきと同じ位置だね。じゃあお前が晴翔と二人で居る時に、嬉しいと楽しいの他で新しい感覚はあるかい?」
「うん、晴翔と居ると此処がこんな感じになる」
心臓に置いた片手を結んでは開き結んでは開き、それを何度も繰り返していた。
裕進はそんな聖那を思案深く眺めていた。
問診だけでアンドロイドの体に触れる事もなかった。
体に触れずとも診断結果は出ていた。
裕進が子供の成長を見守るような眼差しで聖那を見ていた。
成長していくアンドロイドを感慨深げに見つめていた。
「聖那、それは恋をしているんだよ」
裕進がアンドロイドに新たな感情を教えた。
その瞬間、湖南の心臓がどくりと嫌な音を立てた。
その後に続く動悸が治まらず、湖南は心臓を押さえつけた。
「恋?」
「そう、お前は晴翔に恋をしてるんだ」
「恋ってお父さんがお母さんを愛してるっていうのと同じ?」
「同じだよ。人間が持つ感情の一つだ」
「僕、また少し人間に近付いた?」
「勿論、晴翔と居ると胸が高鳴るんだろう?それは立派な恋だ」
「胸が高鳴る。恋。うん、分かった。僕、晴翔に恋をしてるんだ」
「良かったな。勿論聖那を精一杯応援するよ」
「うん、お父さん、教えてくれてありがとう」
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