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小説という名の日記B(栞機能無し)
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この辺りは本当に緑しかない。
木々と原っぱで覆われた地面。
時々晴翔が街に出掛け必要なものを揃えていると言う。
その一本道が剥き出しの地面になっているだけで、その他は小さな雑草の原っぱだったり大木に囲まれた森林だったりで、此の山は本当に緑で覆われていた。

一本道さえも凸凹して車無しでは難しいものがあった。
よくも此処まで歩いてこれたものだと、自分自身を誉めたくらいだった。

こんな山奥によくもこんな立派な建物を建てたものだと思う。
住居だけならまだしも設備の整った研究所は、緑の中にぽかりと浮いている。
落ち着ける静かな環境を望んだ結果が山奥だったのだろうか。



裕進は他人との関わりを好まない。
それが愛した女性を失った悲しみからなのかは分からない。
ただ聖那だけには愛情を注いでいる。
晴翔との関わりも嫌がってはいない。
狭い裕進の世界で必要なのは、聖那と晴翔だけだ。

裕進の事を考えると、湖南の中に靄々としたものが湧いてくる。
聖那と接していても、面白くない気持ちになる。



余り遠くに行くのは疲れるから嫌だ。
何処まで遊びに行こうとするのか分からず、どんどん突き進む瀬名にそう言った。
立ち止まった聖那は少しの疲れも見せてなかった。

「人間の身体って大変だね」

アンドロイドはどれだけ動いても疲れを感じない。疲れないから感じる事がない。
それなのに羨ましいと湖南に言う。

「僕も人間になりたいな」

今でも十分機械らしくないのにそれ以上を望むのか。
アンドロイドだと言われなければ、人間として十分通用する。



「僕は聖那が羨ましいけど」

そう言うと、どうして?と聖那が聞いてきた。
単純な問い。分からないから尋ねただけ。

「聖那はアンドロイドでも裕進さんの愛を貰ってるじゃないか」

自分で言っておきながら吐き気がしてきた。
だから聖那が何か言う前に、疲れたから帰ろうと口にした。

疲れたという言葉を額面通りに聖那が受け取る。
また来ようね。
湖南を引っ張る手は、その素材により温もりも冷たさも感じなかった。



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