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小説という名の日記B(栞機能無し)
8

「確かにそれもあるけど」

「けど?」

「でもそれだけじゃない」

「じゃあ何でですか」

「湖南が倒れてたあの道は此処にしか通じてないんだよね」

何が言いたい。のんびりした口調が信用ならないと、湖南の警戒心を強くした。
だから。

「だから湖南が此処で暮らすのは必然ってこと」

あっさりと言い放った晴翔につい、あんた馬鹿?と漏らしてしまった。



「裕進さんの仕事手伝うくらいだから馬鹿じゃないとは思うんだけど」

誰も頭脳の事を言ってやしない。その巫山戯た性格の事を言ってるんだと言いそうになった。

だがよくよく考えれば、湖南はこの男の性格を知っている訳ではない。
巫山戯ているのか、何も考えてないのか。それとも裏があるのか。
むすりと黙り込んだ湖南に、晴翔が名前を呼んでと再び催促してきた。



別に聖那に聞けば済む事だが、この男は簡単に引き下がりそうもない。
何時までも名前を呼ばないでいたら、呼ぶまでずっと言い続けそうな気がした。

仕方なく「晴翔さん」と呼んだ。
だが、晴翔が違うと首を振る。
一体何なんだと眉を顰めると、「晴翔」と態々訂正してきた。

腹立たしさに「晴翔」と吐き捨てるように名前を呼んでやった。
嫌々呼んだと分かるのに、そんな言い方でも満足したらしい。
良くできました、と頭を撫でてくる。
トレイとスプーンを持った儘の両手は塞がっていて、湖南は頭を振ってそれを拒否した。



「それで聖那のお母さんって人はどんな人なんですか」

これ以上は相手にしていられないと、湖南は話を元に戻した。

んー、そうだな。
どう言おうかと考えているように口を開く。
聖那に与えた情報を湖南に教えるだけでいいのだから、そんなに深く考える必要はない。
面倒臭くなってそう言うと、確かにそうだと頷いて漸く話し始めた。

「裕進さんには愛してた女性がいてね。あ、今でもその人のこと愛してるんだと思うよ」

ただ過去形になったのは、その人が亡くなってるからなんだ。

その言葉に心臓が小さく音を立てた。



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あきゅろす。
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