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小説という名の日記B(栞機能無し)
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そう言えば、礼を言わなければならなかったと思い出した。
なるほどこの男なら湖南を背負って運べるだろう。
男に付き纏っている聖那と比べても、身長に差があり体格もいい。
そう納得して再び頭を下げた。

「迷惑を掛けてすみませんでした」

顔を上げると晴翔が湖南を見ていた。
裕進とは違う人当たりのいい表情で、これを食べな、とトレイを差し出してくる。

「湖南、俺は晴翔。宜しく」

湖南がトレイを受け取ると、疾くに終わった自己紹介を再びしてきた。



「それじゃあ聖那、俺達は向こうに行こうか」

目を眇め湖南を観察していた裕進が聖那を促す。
三人の生活に突然割り込んできた闖入者を歓迎してないのが分かった。

だが聖那にはそれが伝わってない。

「えー?僕も居たい」

「駄目だよ、彼もこんなに人が居ては食べ難いだろう。後は晴翔に任せなさい」

内心を隠し上手い事を言うものだ。
だからこのアンドロイドは素直で明るく成長しているのだろう。
経験し学習していくプログラムは、人間に裏表があるのを知らない。

はぁい、と素直に聞き入れて、じゃあまたねと湖南に笑顔を向けた。
アンドロイドだから表情筋が強張る事はないらしい。よくあんなに笑顔ばかり浮かべていられるものだと感心する。

「晴翔、あとは頼む」

晴翔に声を掛けて裕進が聖那と出て行った。



「食べてみろよ」

二人だけになった部屋。喋りもしない、食事に手もつけない湖南に気まずくなったのか、晴翔がトレイを顎で指し示した。

此処ん家は機械が料理も熟すんだ。だからお袋の味とまではいかないが、それでも結構美味いと思うぞ。

料理を機械が作る。天才科学者の裕進にとっては、身の回りを補う機械を作るのもきっと容易い。だから生活に不自由はない。

「聖那もアンドロイドなんでしょ」

湖南が何も知らないと思っていたらしい。晴翔が軽く目を瞠った。
聖那から聞いたと付け加えれば、驚きから一転、なるほどと納得する仕草を見せる。

口に含んだスープは少し冷めていて、喉を緩やかに流れていった。



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