小説という名の日記B(栞機能無し)
5
裕進の視線は湖南に冷たかった。
研究と聖那と裕進が愛した女性、彼の関心を引くのは恐らくそんなところだろう。
湖南は裕進にとって聖那が連れてきた人間、ただそれだけの位置なのだと分かった。
「晴翔が彼に食事を持ってきてくれるから」
その証拠に湖南の食事を、湖南ではなく聖那に語り掛けている。
それに湖南の体調を気にする発言もない。
甘やかされたアンドロイドが、「お腹空いたよね?」と問うてきた。
空いてないと言っても良かったのだけれど、湖南はアンドロイドじゃない。空腹でなくても人間なのだから栄養を摂らなければいけない。
そうだね、と大人しく頷いておいた。
そう言えば裕進の愛した女性、聖那からすれば母親になるのだろう女性の事を聞きそびれたな、と裕進と聖那を見ながら思い出した。
湖南に関心のない裕進が聖那の頭を撫でている。
口数が少ないながらも愛情を注ぐ裕進と、人間のように素直に甘える聖那を見ていると、益々食欲が失せた。
「あれ、皆さんお揃いで」
皿の乗ったトレイを持ち現れた男が、おどけたように口を開いた。
その声に振り向いた聖那がバタバタとその男に駆け寄っていく。
「晴翔、おかえりなさい。それ、湖南のご飯?」
トレイの上の料理を覗き込んだ。
本当にアンドロイドなのかと思うほど、動きも仕草も人間と変わらない。
科学者の頭脳は確かに天才だ。湖南は此処まで人間に近いアンドロイドを見た事がない。
聖那を可愛がるのは裕進だけでなく、この男もなのだろう。
ほら邪魔、と言いながらもその口調が優しい。
「あっ、晴翔。紹介するね」
湖南だよ、と紹介されて、湖南は儀礼的に頭を下げた。
「晴翔が湖南を運んでくれたんだ」
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