小説という名の日記A(栞機能無し)
3
飲むか飲まないか分からなかったが、何度もそれを繰り返す。
少しずつ減っていくミルク。
口の中にミルクが溜まっていっている様子もない。
どうやら思い付きは成功したらしい。
半分ほど減った時点で、もう一度乳首を口の中に入れてみる。
今度は少しずつ、だが確実に哺乳瓶の中のミルクが減っていった。
空っぽの哺乳瓶を眺め太一は満足する。
だがまだする事があった筈。
太一は古本屋で買った本を捲った。
赤ちゃんを肩に担ぐ。
背中を叩いてみた。
赤ちゃんは重く、落とさないようにするので必死な太一は、力加減が出来ない。
トントンではなくドンドンになってしまったが、ゲップが出たからこれも成功だろう。
再び太一は満足した。
オムツの取り換えも何とか出来た。
僕にも赤ちゃんを育てられる。
太一は自信を持った。
後は大きくなるまで母親に見つからなければいい。
小さな泣き声は、たぶん部屋の外には聞こえない。
両親が帰ってきて夜御飯を食べる。
「お兄ちゃんが夏休み終わりにちょっと戻ってくるんだって?」
「ええ、何だか学校が忙しいみたいで、一泊くらいしか出来ないみたいよ」
両親の会話を黙って聞いていた。
お兄ちゃんが帰ってきたら赤ちゃんをどうしよう。
お兄ちゃんの部屋は太一の隣。
太一の部屋はお兄ちゃんの部屋より狭いから、隠せる場所なんて限られている。
困った。
部屋に戻り赤ちゃんに相談してみる。
けれど赤ちゃんはすやすや眠っていて、太一の悩みを聞いてくれなかった。
夜中赤ちゃんの泣き声で目が覚めた。
小さな泣き声だったけれど、太一は頑張って起きる。
オムツを見ると見事に汚れていた。
ゴミはゴミ箱へ。
でもバレないように新聞紙に包んで捨てる。
赤ちゃんを取り上げられる訳にはいかない太一は、常に真剣だった。
お風呂だって両親が仕事に出掛けた時にシャワーで済ませる。
バケツを試してみたけれど、やってみてこれは無理だと分かった。
床に置いて赤ちゃんを洗いシャワーを掛けた方が楽だった。
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