小説という名の日記A(栞機能無し)
19
痛みを堪え、声と音のした方を見る。
頬を押さえ倒れている侑久。
それを仁王立ちで睨む馳矢。
馳矢が侑久を殴ったのだと知った。
「馳矢、お前、来るの早すぎ」
殴られた頬を押さえながら侑久が言い放つ。
その声は淡々としていて、殴られても動じていない。
侑久がゆっくりと立ち上がる。
「てめぇ」
胸倉を掴もうとする馳矢の腕を払いのけた。
「詰まんねーの」
「何だと?」
「俺、しらけた。」
睨む馳矢に真っ向から侑久が冷たい視線を浴びせている。
冷めた口調で言い放ち、気怠げにちらりと智之を見遣った。
蹲る智之と馳矢を交互に眺めた後、面倒臭そうに踵を返す。
「おい、侑久。待てっ」
立ち去る侑久を引き留めたいが、蹲る智之が気になるらしい。
馳矢が心配げに智之に視線を向けては、立ち去る背中を睨んでいる。
たが侑久は振り向かず建物の向こうへと消えていった。
ゆっくりと智之が体を起こす。
殴られ蹴られた場所が痛い。
痛みを耐え状況を確認した。
先ず智之が見たのは、建物の陰に消えていく侑久。
侑久が完全に見えなくなってから、馳矢に視線を向けた。
馳矢が智之を睨んで立っている。
威圧感が半端ない。
厳つい顔をしていて、視線も鋭い。
その圧迫感に堪えきれなくて、智之は俯いた。
「大丈夫か?何処か骨が折れてるってことはないよな?」
その低い声音に思わず肩が揺れる。
噂も納得出来るくらいの風貌。
威圧的なそのオーラ。
目の前の存在にびくついて、ぶるぶると首を振る。
「だ、大丈夫です。打撲程度だから大したことない・・・です」
それ以上何を言えばいいか分からず、視線を俯けた儘、口を閉じる。
どうしよう。
居心地が物凄く悪い。
でもよく考えたら馳矢が来なければ、もっと殴られていたと思う。
侑久が約束を忘れていたとは言え、馳矢が来たからこれ以上の仕打ちを免れた。
結果的に馳矢に助けて貰ったことになる。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
無料HPエムペ!
|