小説という名の日記A(栞機能無し)
10
ぶつかった衝撃で、そのぶつかった相手が尻餅をついた。
しまった。
俺が悪かった。
注意力散漫なのだろう。
前方不注意の自分が腹立たしい。
「ごめん。大丈夫だった?」
倒れ込んだ相手の顔を見た瞬間、智之は背筋が凍りついた。
関わりたくないと思った人物の一人が、眉を顰め智之を睨んでいる。
「態とだよな?」
襟首を掴まれ引き寄せられる。
ぶるぶると頭を振る智之に、侑久が口端をあげた。
「俺、凄く痛かったんだよね。許して貰えると思ってる?」
絡まれている。
間違いない。
頭上で警鐘が鳴り響く。
「ごめんなさい。態とじゃなくて前方不注意で・・・」
言い訳ではなかったが、言い訳がましく聞こえたのかもしれない。
「ふうん、此処じゃ何だからちょっとお話しに行こうか」
形の良い唇がにやりと笑った。
ぶつかったのは智之が悪い。
侑久も余所見をしていたとしても、実際倒れたのは侑久で、どちらがより不注意だったかと言えば智之自身だと思った。
だから何処かへ向かう侑久の後をびくびくしながらも付いていく。
許して貰おう。
謝ろう。
なるべく穏便に済ませて貰えれば。
頭の中をぐるぐると謝罪の言葉が駆け巡っていた。
侑久に連れて行かれた場所は、西校舎の空き教室。
時々授業中見ないのは、此処でサボっていたのかと納得する。
馳矢の方が威圧感があるが、あの竹村馳矢と居るからには何事もなく済むとも思えない。
ぶつかられた相手をこうして呼び出すくらいだ。
問題を起こした話は聞かないが、侑久も危険人物なのだとひしひしと感じる。
だが最近ではもう一人の要注意人物と一緒に居るところを見ない。
それでも危険な人物であることに変わりはなかった。
「ごめんなさい」
空き教室に着いた途端、智之は勢い良く頭を下げた。
ぶつかってよろめいたのではなく倒れた。
それは、それだけ智之が激しくぶつかったという事だ。
ならば態とではなかったとは言え謝らなければならない。
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