小説という名の日記A(栞機能無し)
29
俺の感覚は麻痺したのだろうか。
現実の世界の住人よりファンタジーの世界の住人に惹かれる。
例えば二重人格ならば、主人格の肉体と別人格の肉体は同じだ。
同じならば、その肉体を抱きたいと思うのではないか。
だが俺は湧斗を抱きたいとは思わない。
フアルならば・・・。
だがあれはフアルの肉体なのだろうか。
バイトの給料が入った俺は、早速田舎へフアルを連れて行った。
晴れていなければ見えない星空。
今日も無数の星が瞬いている。
無限の宇宙。
見知らぬ惑星。
どれか一つでも人類は、生きているうちに辿り着けるのだろうか。
想いを馳せたように目を細める横顔を眺める。
きっと重ねた手にも気付いていない。
フアルの喜ぶ顔が見たくて連れてきたことは後悔してない。
純粋に連れてきてよかったと思う。
けれども何だか取り残された気分になる。
だから気を惹きたくて話しかける。
「もしも本当に種族の惑星があるとしたらどの辺?」
ずっと見つめた儘の遥か彼方を、フアルが指差す。
「あの辺」
抽象的すぎて分からない。
見渡す限りの広さは、指を差しただけじゃ範囲が僅かしか狭まらない。
だがフアルには分かるのだろう。
迷いなく一点を指差している。
ファンタジーの世界の住人だからと、声にならなかった言葉はたくさんある。
切なく一点を見つめる瞳。
憤りではなく諦めの色。
「俺さ、フアルとずっと一緒に居たい」
勇気を出した呟き。
フアルが驚いたように目を瞠り、軈て哀しげに微笑む。
「俺は分からない。それが本当だとしても、俺には分からない」
何が分からないのだろう。
俺だって分からない。
どうすればいいのか。
どうしたいのか。
「本当なんだけどな。まあ、あんまり気にするな」
そうして自分さえも分からないものを、曖昧に誤魔化した。
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