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小説という名の日記A(栞機能無し)
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「昨日、見舞いに来てくれただろ。一応、礼を言っとこうと思って」

「あれ?そうだったっけ?」

またファジー機能が作動したらしい。
にこにこ顔のまま呑気に返してくる。



いつもなら一々説明するのが面倒で敢えて触れない。

だが今俺は見舞いに来てくれたことへの礼を言っている。
これでも人並みの礼儀は弁えているつもりだ。

「飲み物を買ってきてくれたろ?それで、金を払おうかと」

見舞いだから差し入れだろうが、一応財布を取り出してみせる。

そしてあれは矢張り差し入れだったらしい。
財布から金を取り出そうとした俺を、「ちょっと待って」と止めてきた。

「えと、その・・・、実は覚えてないんだよね。最近忘れっぽくなったのかなぁ」

差し入れ以前の話だった。



気まずそうに眉を下げる湧斗。

「やっぱり俺、変なのかな?みんなの言ってる事が分からない時が最近よくあるんだ」

そして不安そうに言葉を重ねる。

「今まで、覚えてないや、忘れちゃったってただそんな感覚で、何でか不思議に思わなかったんだけど。でも詠嗣のお見舞いくらいは覚えててよくない?てか覚えてなきゃ変じゃない?」



変だと言い切るには躊躇いがあった。
何故かもう一人の存在を知られたくなかった。

二重人格なのか、それとも全く別の存在なのか。
湧斗の中にはもう一つの存在がある。

何故かそれを知られたくない。
知られてしまえば、もう一つの存在が遠退いていく気がする。



生温いタオルは決して気持ち良くはなかったが、悪くはなかった。
途方もないお伽話も悪くはなかった。

あの存在ならば傍に居ても嫌じゃなかった。



「別に覚えてなくてもいいんじゃないか?気にすることでもないだろ」

「そうだよね。そう言えば、昨日休んだ分のノート見せてあげようか」

ファジー機能は矢張り作動しているらしい。
気にしない方がおかしいのに、あっさりと話題を変えてきた。





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あきゅろす。
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