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小説という名の日記A(栞機能無し)
5



授業終了のチャイムが鳴る。
放課後になった。
鞄に荷物を詰め、帰り支度を終える。

不思議なことに、ばたばたと駆け寄ってくる音がしない。
俺の家での勉強会。
湧斗が嬉しそうに駆け寄ってくる筈だった。



湧斗の席を見れば、そこには誰も居ない。
机も綺麗に片付いている。
出入り口を見れば、今、正に帰ろうとしている湧斗の姿があった。

何だ、あいつは。
自分で勉強を教えてくれと頼んでおきながら。
昼間だって楽しみだと言っておきながら。
何をさっさと帰ろうとしてるんだ。

慌てて後を追いかけた。



「湧斗、お前、俺に勉強を教えて貰うんじゃなかったのか?」

例え急用が出来たとして帰らなければならなくなったとしても、俺に一言言って帰るのが礼儀じゃないか?

苛ついて、声にも不機嫌さが滲み出る。

「勉強・・・。勉強を教えてほしい」



約束を忘れていた訳ではなかったらしい。
一緒に家まで歩きながら、さっさと帰ろうとした理由を問えば、あっさりとした答えが返ってきた。

「詠嗣の家は記憶にある。だから詠嗣の家に行けばいいと思った」

詰まり、一人で俺の家に行こうとしていた、と。
一緒に帰るとは思ってもいなかった、とそういう事か。



朝に感じた違和感が蘇る。
湧斗らしからぬ湧斗。

昼間はいつもの湧斗だったが、今の湧斗は朝の湧斗と同じだ。

これはまたジョークなのだろうか。
若しジョークなら流してしまえばいい。



黙々と前を歩く細身の背中。
いつもなら並んで歩きたがる。
だが今は振り返りもしない。

これは気を惹くための演技だろうか。
押して駄目なら引いてみろというのを実行しているのだろうか。

それにしては不自然な気がする。



家に着いた湧斗が、ガチャガチャ玄関のドアノブを回す。
鍵が掛かっているのだから開くわけがない。
と言うか、何度も家に来ているのだからそれぐらい知ってるだろ。

不可解な行動に突っ込みを入れず、黙って湧斗を押しのける。
鍵を開ける俺の手元を、湧斗が凝視している。
扉を開ければ、何かを納得したように中へと入った。
















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