小説という名の日記A(栞機能無し)
6
「これあげる」
水上の掌の上の飴。
パッケージに入ったそれをちらりと見てから、直ぐに読みかけの本に目を戻す。
だって要らないし。
向こうに居るお友達は全員貰ってくれたんでしょ?
態々僕にまでくれようとする必要ないんじゃない?
一向に受け取られない飴。
がっくりと肩を落とし、水上が腕を引っ込める。
「イチゴ味、嫌いだった?」
いやいや、君から貰いたくないだけなんだけど。
それくらい分かってるだろうに。
「じゃあ、こっちは?」
ポケットをごそごそと漁り何かを差し出してくる。
リンゴ味だとか、グレープフルーツ味だとかどうでもいいし。
視界のほんの片隅に映ったそれに溜め息が出る。
流石に諦めたのか、水上は一向に受け取られない飴をポケットにしまう。
けれど諦めたのかと思いきや、そうではなかった。
なかなか向こうのお友達の所に戻ろうとしない。
何か言いたいらしく、「あー」だの「うー」だのもごもごと煩い。
それでも僕は本の文字を追いかけた。
いい加減あっちに行ってくれないかな。
本に集中できない。
苛々がピークに達しようとした時に、漸く水上の決心がついたようだった。
「あのさ、幸広って呼んでいい?」
「はぁっ?何で?」
思わず荒げた声に、水上がどもりながら答える。
「だって俺ら友達だろ?だからもっと仲良くしたいと思って」
「はぁっ?いつ誰が君と友達に?」
「俺、幸広のこと友達だと思ってるんだけど」
有り得ない!
とにかく吃驚した。
僕と水上がいつ友達になったんだか。
まさかクラスメートはみんな友達とか?
遠慮がちでも言ってることは厚かましい。
きっとこれを晴臣さんは聞いている。
僕のポケットに入っている盗聴器。
肌身放さず持っていて、体操服に着替えた時も放さない。
本人了解の元だから、盗聴とは言わないのかもしれない。
何せ盗聴器を持ち歩くことも条件の一つだからだ。
誰とも親しくしていないことを示す為のもの。
だから今の発言は頂けない。
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