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小説という名の日記A(栞機能無し)
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玄関に知らない靴が一足あった。
男性用の靴。
家の奥からは楽しそうなキヨさんの笑い声。
男の人の声もする。

「ただいま」

居間に顔を出すと、キヨさんと弁護士さんが居た。



「おかえり」

「おかえりなさい」

キヨさんがにこやかに挨拶を返してくる。
弁護士さんも振り返り声を掛けてくる。

「暖弥君、今ちょうど君の事を話していたんだよ。勉強も大事だと思うけど、田辺さんもお年だからね。暖弥君もなるべく手伝いをしてあげてください」



大体の会話が想像できる。

料理も洗濯も掃除も、この歳でもまだまだ私はしてますよ。
暖弥は学生だし、家事は私の仕事ですからね。

大方こんなところだろう。



掃除も洗濯も僕がしている。
料理だって僕が作っている。
時々作るキヨさんの料理は、とても食べられる代物じゃない。
第一、キヨさんの作ったものをキヨさん自身は食べない。



「まぁまぁ、暖弥もそのうち孝行してくれますよ」

にこやかに僕を庇うキヨさんは、少しもおかしさを感じさせない。

トイレ以外で排便や排尿をするのに。
いきなりやってきて部屋の扉を叩くのに。
僕を母さんと思い込んだりするのに。
服だって破ったりするわ、それを僕の所為にするわ、全部全部、僕が後始末をするのに。

今はそんなこと微塵も感じさせない。



だから今も弁護士さんはキヨさんを褒め称える。

「いやぁ、幾つになられても健康で羨ましい。私も田辺さんみたいにいつまでも若く居たいもんですな」



弁護士さんをこっそり引き止め、キヨさんの奇行を話した時もそうだった。

「暖弥君、田辺さんに怒られたのか知らないけど、そんな事は言うもんじゃない」

「彼女はまだまだしっかりしてるじゃないか。君を育ててくれている人の事を、そんな風に言ってはいけない」



弁護士さんは僕を問題児だと思っている。
もう二度とこの人に訴えることはない。

「それじゃあ宿題がありますから」

嫌みなくらいにっこりと笑って、僕はその場を辞した。

















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あきゅろす。
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