小説という名の日記A(栞機能無し)
9
昼休み担任に呼び出されたから何かと思えば、修学旅行の話。
前に行かないとはっきり言ったのに、担任は諦めてなかった。
「だけどなぁ、行かないのは田辺だけなんだよ」
「そう言われても、僕の気持ちは変わりません」
さっきから押し問答。
泊まり掛けで家を空けるなんてとんでもない。
ましてや二泊三日。
帰ってきたときの家の荒れ具合を想像すると恐ろしくなる。
僕しか片付ける人は居ないのに、そんなに家を空けたらきっと悲惨な状態になっている。
それにキヨさんの御飯だってある。
僕しか作る人が居ない。
だけどそんな事情は話せないから、メンタル面に訴える。
「僕が居ない間に、お祖母ちゃんまで死んだらと思うと・・・」
両親を亡くした僕の武器。
両親を悲惨な状況で亡くしたのに前向きに頑張っている、健気で明るい子供。
そんな僕が時折見せる内面の弱さ。
「そうだよな・・・。不安にもなるよな」
担任の同情。
「はい・・・。不安で不安で離れたくないんです」
「だけどみんなと思い出を作りたくないのか?」
「不安で押し潰されそうになって思い出どころじゃないです。先生、本当にごめんなさい」
頭を下げたままの僕に、とうとう担任も諦めた。
「それじゃあ行かないってことで最終決定だな」
「本当にごめんなさい」
もう一度謝って職員室を出る。
弁護士に話しても分かって貰えなかったんだ。
僕はもう誰にも僕の事情を話す気はない。
家に帰って靴の数を確かめる。
昨日と同じ数に溜め息を吐く。
徘徊という言葉をよく聞くけど、キヨさんには当てはまらない。
もし靴が足りなくなってても、僕は探しに行かない。
キヨさんが出て行って戻ってこなければいいと思う僕は、間違いなくキヨさんの孫なんだろう。
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