小説という名の日記A(栞機能無し)
37
「僕はね・・・、僕の事なら智行は気にしなくていいんだよ。本当に幾らでも待てるんだ。だから智行が本気で僕に抱かれたいと思ってくれた時に抱きたい」
怯えさせないように萎縮しないように、なるべく穏やかに達朗が言葉を紡ぐ。
智行は胸が痛くなって助手席の窓の外を眺めた。
達朗があの女の兄である限り、智行から抱いてと言うことは絶対にない。
それでも待てると言うのだろうか。
何も知らないから言える言葉。
そこまで想って貰える程の事をした覚えはない。
なのにいつまで待つと言うのだろう。
せめてあの女の兄でないなら・・・。
自分の考えていた事に、はたと気づく。
あの女の兄でないなら?
あの女の兄でないなら何だと言うのだろう。
眠れずに意識が集中していた背中。
もし昨夜達朗が体を求めてきていたら、自分は拒めていただろうか。
ふと思い当たった考えに狼狽えた。
家に辿り着き部屋のベッドに体を投げ出す。
ぐるぐると気持ち悪い。
寝不足と訳の分からない感情に押し潰されそうになる。
夜から仕事だ。
何も考えるな。
自分自身に命令して、布団を頭から被る。
光を遮断した暗闇の中で、漸く眠りに墜ちていった。
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