小説という名の日記A(栞機能無し)
2
その日、とあるファッションビルで靴を購入した。
購入したその場で急いで履き替える。
急いだのはトイレに行きたかったから。
だからトイレを探して、三階にその入口を見つけた時はほっとした。
入口に入ると、左右にトイレが分かれている。
ちらりとマークを見て、右手に飛び込んだ。
個室の扉を開け智行は吃驚した。
若い女性が便器に座っている。
今まさに用を足している姿。
男子トイレに何故女性が?との疑問が湧いたが、それどころじゃない。
すみません、と謝罪して隣の個室に飛び込み用を足した。
「きゃあ」
女性が悲鳴をあげたのは分かった。
何せ丸見えだった。
だから申し訳ないとは思った。
だが男性用トイレで鍵も閉めず用を足す方もどうかと思う。
小便を済ませ個室から出てきた智行を待ち構えていたのは、鍵も閉めず用を足していたその女性だった。
「見たでしょ」
怒りに震える断定的な声。
智行を睨む眼差しもきつく、怒りで頬が朱に染まっている。
「ごめん。でも鍵が閉まってなかったから」
理由はどうでも智行に見られたのは事実で。
だから謝罪をし、だがその後釈明も付け足した。
「きゃあ、痴漢よぉ。覗き魔よぉ。泰志、来てぇ。誰か早く痴漢を捕まえて」
突然大声をあげ叫ぶ女性に、驚きで目を瞠る。
痴漢?覗き魔?
何を言ってるんだ。
間違えたのはそっちじゃないか。
混乱と、いきなり理不尽な事を言い叫びだした女性への怒り。
だが不意に気づいた。
個室しかないトイレ。
最近は男性用便器のないトイレが偶にあるから、心にも引っかからなかった。
だけど。もしかして。
間違えたのは女性ではなく智行ではないか。
混乱の中、慌ただしい気配。
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