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小説という名の日記A(栞機能無し)
19



数馬の言葉に、今度こそ正季が大きく目を瞠る。

何それ。
軈てそう呟いた後、ありがとう、と小さく俯いた。

デカい体で泣き出すかと思った。
慌てて数馬は話題を変える。

「それにしてもその喋りで、よく誰も何も言わないな」

顔を上げた正季は泣いていなかった。
数馬自身泣いた記憶はない。
だが正季のそれは、泣き方を知らない子供のように見えた。



「最初は変って言われてたんだけど。でも記憶喪失って言ったら納得してた」

数馬の仲間とそれなりに上手くやっているのだろう。
今でも揶揄われる事はあるけどね、と再び苦笑混じりの声がする。

仲間と上手くやっているならそれでいいと思う。
だが数馬は話題を変えた事を何となく後悔した。

ただ、泣けばいいのに、と思った。
さっき話題を変えたのだって、自分の体で泣かれるのが嫌なのではない。
何故か胸が締め付けられて、気付けば別の話題を探していた。
目の前で泣かれるのが嫌で別の話題を振ったのに、実際泣かなかった正季を見ても何故かすっきりしない。
泣けばいいのに、とただ思った。



「そう言えば・・・」

思い出したかのように、正季が鞄を漁り出す。
物が余り入ってなさそうな鞄から直ぐに取り出して、はいこれ、と数馬に差し出した。

渡された物は数馬の携帯電話と充電器。

「俺、携帯持ってないから使い方分かんなくて」

だから電話に出なかった、とそれは言い訳のようなものだったが、数馬は気にしなかった。
あの部屋での暇つぶしと言えば読書くらいのもので、携帯があればだいぶ違う。

「それがあれば便利なんじゃない?」

「ああ、おまえの部屋って小説くらいしかなかったからな」

退屈しないで済む、と口角をあげる数馬に、「退屈な部屋で悪かったな」と正季が拗ねたように突っ込んできた。





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あきゅろす。
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