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小説という名の日記A(栞機能無し)
13



女は顔を顰める数馬に気付いてない様子だった。
つらつらと自慢話に切り替わる。

「お父さんは国民の為になる仕事をしてるのよ。代々そうだったんだから、お父さんも誇りを持ってるの。だから正季もお父さんのように立派な大人にならなくちゃ」

何と言うか、聞いていてウザい。
こんな下らない話を、毎日自慢げに息子に聞かせてきたのか。

熱の入った喋りは、数馬を苛つかせるだけだった。
途中何度席を立とうかと思ったが、我慢して出された料理を全部食べ終えた。



「あら、昨日から正季、食欲もあるのね。いつもは半分くらいしか食べないのに」

「俺は正季じゃねえつってんだろ。よく正季もこんな家で我慢できたもんだな。言っとくが、俺は正季じゃねえから我慢するつもりはねえ」

女を黙らせて部屋に戻った。



取り敢えずベッドに寝ころぶぐらいしかする事がない。
数馬の学校に行ってるとは限らないが、学校帰りに正季に会いに行った方がまだ確実だ。

たぶん正季はこの家に帰りたがっていない。
だから正季から連絡が来る事はない。

随分と厳しい家庭で育ってきたもんだと思う。
数馬の家が放任主義だからそう感じるだけなんだろうか。



門限が十八時なのも二十一時になれば捜索願なのも、正季の両親は本気で言っていた。
外泊も禁止、勉強を強いられ常に成績上位、厳格な躾。
そりゃあ一見真面目に育つだろう。
反抗期すら圧倒的な力で抑えつけられてきたのではないか。

机の引き出しを思い出し、矢張り陰鬱な気分になった。



昼飯も食べ終えたがまだ出掛けるには早い。
出掛けてもいいが、正季の小遣いは少ない。
遊びにいくほどの金額もない。
それよりもいつ正季に会えるか分からないから、交通費を取っておきたい。

つい本棚に手を伸ばし、推理小説を捲ってみる。
本を滅多に読んだ事がないが、気付けば次へとページを捲っていた。

首が痛くなりぐるりと首を回せば、時計が目に付く。
そろそろ出掛けてもいい時間だった。





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あきゅろす。
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