小説という名の日記A(栞機能無し)
17
トキと幸隆はいろんな事を話した。
正体を打ち明けた分、いろんな事が話せた。
トキが見てきた人間は一部分でしかないと言う。
地球という星に住む人間のたった一部分。
幸隆は何も特別ではない。
幸隆もみんなと変わらない。
そう言って幸隆はトキの知らない人間の話を聞かせてくれた。
困った時には助け合うこと。
誰も本当は戦争を望んではいないこと。
悲しければ泣くし楽しければ笑う。
それはトキが見てこなかった人間の部分だった。
トキの住む惑星を拒んだ理由も教えてくれた。
他の人間は奴隷として扱われるのに、自分だけがトキの好意に甘える訳にはいかない。
けれどそれ以上にトキの奴隷となるのが嫌だった。
トキを好きだからこそ、対等で居たかった。
言葉だけだとしても、トキの奴隷になるのが嫌だった。
それに此処には家族が居る。
幸隆の生まれ育った星。
最期は家族と迎えようと思っていた。
だけど幸隆はトキと共に過ごす事を選んでくれた。
最期を迎える相手として、トキを望んでくれた。
「トキは特別なんだ。トキが俺を選んでくれたのに、俺がトキを選ばない筈がないじゃないか」
幸隆はそう言うが、家族より自分を選んでくれたという事実は、何度でもトキの胸を熱くさせる。
幸隆がトキの傍に居てくれる事に、この上ない幸せを感じてばかりだった。
一秒たりと離れていたくない。
ずっと幸隆の体温を感じて過ごした。
開け放たれた扉から入り込む外気に、何方からともなく二人は目覚めた。
トキの惑星が人間の他の部分を見ていたら。
世代交代の前にトキが中止を申し出ていたら。
それらを今考えても遅かった。
それらはもっと早くに考えるべき事だった。
人間の沢山集まってる地域。
きっと其処から奴隷は集められる。
この地域に住んでいる人間は少ない。
奴隷を集める必要のない地域には用がない。
だからたぶんこの地域は直ぐに浄化される。
刻々と迫り来る時刻。
幸隆と過ごせる幸せだけを感じながら最期を迎えよう。
見上げる瞳を覗き込めば、幸隆がにこやかに微笑んでくれた。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
無料HPエムペ!
|