小説という名の日記A(栞機能無し)
26
こんなんでいいのか?
睡眠薬を飲んだ事がないから分からない。
渡された量はそれでも通常量を遥かに超えていた。
「飲んだことないんでしょ?だったらそれで大丈夫。それ以上渡したら俺の分が減っちゃうし」
一緒に死んでくれるんでしょ?
だったら晃弘から飲んで。
俺の目の前で飲んで見せて。
水の入ったペットボトルを渡された。
「航希」
名前を呼んで体を引き寄せた。
顎を掬ってその唇にキスをする。
薄く開いた唇。
ゆっくりと舌を入れ、そっとその舌に絡ませた。
航希は大人しく抱き寄せられていた。
唇を離した後も、静かに寄り添っていた。
「これを全部飲めばいいんだな」
頷く気配がした。
もう一度航希を見て、優しく頭を撫でる。
その後、晃弘は一気に錠剤を飲み込んだ。
「晃弘、聞こえる?」
遠い気がするけど聞こえてる。
「晃弘、ごめんね」
また謝るんだな・・・。
「だけど俺の分までやり直して」
だからそれは・・・。
「だって本当は晃弘のお父さんは死んでないんだ」
死んでない・・・?
「でも俺はやり直せない」
瞼の裏に浮かぶ光景。
少しだけ見えたあの部屋の映像。
「だから晃弘が俺の分までやり直して」
なぁ、航希。
もしこれで二人とも生きていたら、その時は・・・。
やり直そうぜ。
急速に声が聞こえなくなった。
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