黒板消し
『黒板消しって…すげーよな』
始まりは,あの男の一言だった。
黒板消し
『何言ってるの?君馬鹿?』
『ははっ容赦ねぇのな』
『君がいきなり馬鹿な事言い出すからだろ』
山本武。それが彼の名だった。
ここ1ヶ月,彼は暇になると(というより時間を作って)応接室にやって来て,そして毎度僕をからかって帰っていく。
その行為があまりにも長く続くものだから,僕も拒否するのは疲れた訳で。まぁウザいだけで何もしないし(1人で来るから群れてないしね)(だって僕は別だし),別段迷惑な事も(たいして)しないので,最近は放っておいた。
すると恭,いきなり真剣な顔をして そんな事を言い出したのだ。
『だってさ,黒板に書いてあった事をなかったことに出来るんだぜ?』
『…じゃないと黒板消しの意味がないからね』
『んでもって,クリーナーで綺麗にして黒板消して綺麗にして…今流行のエコってやつか?』
『…君は黒板消しを使い捨てにするつもりかい?』
そんな事言ったら,掃除も一緒だと思う。
箒で教室掃いて,雑巾で拭いて…彼の中ではあれすらもエコに入るというのか。
『君の思考回路を見てみたいよ』
『えー俺そんな変な事言ったか?』
『君の存在自体が変だよ。なんでわざわざそんな事考えるのさ』
『…ははっ…酷ぇ言いようなのな』
言えば,複雑そうな表情で髪を掻き上げた彼。
いつもヘラヘラ笑っている彼の,見た事もない表情だった。
僕がそれに驚いて,動きをピタと止めたその時だった。
『…俺は,怖ぇよ』
ポツリ,彼が呟いた。
『黒板消しで,俺が思った事も考えた事も全て消えちまったら。何回書いても,その度に跡形もなく消されて…なかったことにされちまうんだぜ?』
残るのは,せいぜい小さなチョークの後だ。そう言って笑う彼の瞳は,何も映していなかった。
『僕はそうは思わないけどね』
彼の言葉に続けて言えば,今度は彼が驚いたような顔をする。
『例えば黒板に書かれた事が授業の内容なら,それは生徒が板書をするよ』
言いながら,僕は立ち上がって彼の方へと歩み寄った。
『なくなる事は,当然の事さ。でも,それを誰か1人が覚えているかいないかで,世界は大分変わってくるよ』
ツゥ,と彼の頬を撫でれば,血が通った温かさがそこにあった(それに少し安心した,だなんて)。
『黒板に書かれた事は,普通の事より覚えられてるんじゃないかな。それに,それを言ったら黒板消しって違う意味で凄くない?』
『何がだ?』
『黒板に書かれた事は,全部知ってるんだよ』
『そうも…言えるな』
『でしょ?』
『…てゆーか』
どうやら納得したらしい彼(あぁ,こういうのを単細胞って言うんだっけ?)は,いきなりいつもの爽やかな笑顔でこっちを見た。
『最初馬鹿とか言ってたくせに,結構ノってくれたのな』
言われて初めて,自分でもそのことに気が付いた。
あぁ,こんなことを考える僕は馬鹿に成り下がったのだろうか(彼の,せいで)。
『君のせいだよ』
『ははっ!まぁいーじゃねーか。てゆーか雲雀もあんな事考えるんだなー』
『だから君のせいだって言ってるじゃない。どう責任とってくれるのさ』
『んーじゃあ責任とって結婚してやっからs『なんでそうなるの』
『雲雀は今流行のツンデレだなー』
『ちょっと何言ってんの?咬み殺すよ』
『それは勘弁』
そう言ってトンファーを構えれば,瞬時に立って逃げる彼。…いつもの事ながら,反射神経はいいと思う…って,今はこんなことしてる場合じゃない。
『咬み殺す…!』
『ちょ,雲雀…っマジで勘弁―って,ぐはっ!』
『…過去をひとつ清算出来たね』
返り血塗れのトンファーを振って,床に倒れた彼を見る。
『…全く。つくづく君は学習しないね』
そう呟きつつ,しゃがみ込んで彼の顔を見る。
『…俺…お前に嫌われてんのか?』
『さぁね。自分で考えなよ,そんなこと』
容赦ねぇ。そう言って笑った顔は,先程のものとは全く違った。
『…君は,そうやって馬鹿みたいに笑ってればいいんだよ』
誰にも聞こえないように呟いた僕の言葉は,彼の"後で絶対ぎゃふんと言わせてやる"の一言にかき消されていった。
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ふぅ…遅くなって申し訳ないッ!1000hitキリリクです。
なんかお題を活用しきれてない感たっぷりですが,受け取ってください楠太!!
突き返しはいつでも受付ます!!(ぇ
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