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笑うことしかできないから




ツナは,強くなった。

初めて会った頃は,ダメツナなんて呼ばれていたのに。




『ツナ,報告書出来たぜ!』

『あぁ山本…お疲れ様』


SSランクの任務が終わり,報告書をツナ…いや,ボスに出しに行く。
扉を開けると,俺の目的の人物は 中央のデスクで大量の書類と戦っていた。


『もう…嫌んなっちゃうよね,コレ』


ハハ,と笑いながら文字がびっしりと書かれた書類を指差すツナ。その姿を見て,改めて"ダメツナ"が演技だった事を思い知らされる。
…ダメツナなんて,誰がつけたのだろう。

(寧ろ人より優れているくらいなのに)

ポツリ,心の中で呟くと,ツナが微笑して俺の方を見た。


『いいんだ。ダメツナは,俺が望んでやっていた事だから』


―…読心術。
確か16歳になってすぐ,リボーンに叩き込まれていた(それを習得すると云う事は,遠まわしに隠し事の無意味さを表していた)。
俺も便利だと思ったことはあったが,欲しいと思ったことは一度もなかった(…それはきっと,俺が弱いから)。


『それじゃ頑張れよ,ツナ!』

『ん,ありがとう。ゆっくり休んでね』


いつものように,笑って執務室を出る。…そう,笑って。
とてつもなく広いボンゴレ邸の廊下を歩きながら,ふと昔の事を思い出す。
確か初めて接点を持ったのは,俺が屋上から飛び降りようとした時。あの時は何もかもが真っ暗で…全てが絶望的だった。そんな時…自らの命を投げ出す覚悟で助けに来てくれたツナは,マンガに出てくるヒーローに見えた。


『憧れた…んだよなぁ』


"憧れ"。最初は,そうだった。ツナは俺だけじゃなく,皆がピンチの時はいつも一番に助けに来てくれた。そして,守ってくれた(とにかく,ツナは平凡で非凡だったんだ)。
それからはツナと獄寺と俺で行動する事が多くなった。ツナの事は"尊敬"していたし,ツナも俺を"信頼"してくれた(なんだかんだで,獄寺とも仲良かったし)(喧嘩する程仲がいい,ってアレか?)。
…あれから十年。ツナは目に見えて成長していった(まぁツナだけじゃねぇけど)。一番…かは分かんねぇけど,俺はツナの事を知っているつもりだった。…その時までは。

昨日,珍しく昔のメンバー3人でファミリー壊滅の任務へ行った。
敵のアジトに入って,3人バラバラになった。自慢じゃねぇけど俺も昔よりは強くなった(今じゃボンゴレ二大
剣豪とか言われてる)から,ほんの数分で持ち分を終わらせる事が出来た。そして計画通り灯油をまいて屋敷に火をつけ,待ち合わせ場所に向かった…ら。

ツナが立ちすくんで…―泣いていた。

泣いてた,って言っても軽く肩が震えていただけで,本当に泣いていたかどうかは分からない。なんとなく…勘でそう思っただけ。
獄寺は車を取りに行ったのか,その場にはいなかった(いたらツナは泣いてなかったんだろうが)。
ツナは俺に気付いてないみたいで,同じように燃える屋敷を見て…"ごめん"と何度も呟いていた。

その時―…分かったんだ。コイツは,ずっと孤独だったんだろうと。

中坊の時から,いつも俺達といた。俺達を,守ってくれた。"親友"同士だと思っていたし,ツナは俺達の事を一番解ってくれていた。でも―…俺達は何一つ,ツナの事解っちゃいなかったんだ。

―…ツナは,強くなった。
精神面でも肉体的にも…中坊の時なんかと比べものにならないくらい。


『いや…実際,隠してただけか』


本当は,何でも出来たんだ。運動だって,勉強だって。精神面だって…本当は誰よりも強かった。でも,本当は誰よりも弱かったんだ。
人殺しは嫌いな事だって,人に弱さを見せられない所だって。何一つ,変わっちゃいなかった。解っていなかった。
…でもお前は,そんな事一言だって口にしないだろう。例え俺が,それに気付いたと知っても。 だから…


『お前の"親友ごっこ",もう少しだけ付き合ってやるよ』


だってそうやっていることが,お前の望みなんだろ?だったら俺は,それに付き合ってやるよ。…だって,それが俺に出来る精一杯の事なんだろ?ツナ。




(俺は…無力,だな)("親友"を助ける事さえ出来ない)





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