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運命




―えぇ。でもこれが私の運命だから避けて通ることはできないの


遥か昔、星空を見上げてそう言った女がいた。


運命


彼女の目によく似た、深い青の空を眺めてふと思う。

もうあれからどのくらい経ったのだろうか。幾度となく月は満ち欠けを繰り返し、幾度となく花は咲いて散った。
赤ん坊の自分を取り囲む町の景色さえもどんどん変化していき、教え子達もいつしか成長していった。
また昔、呪いを受けた俺の体は赤ん坊に戻ったまま時が止まっていた。その、呪いという誰もが予想しなかったことを予想していたのも彼女だった。

艶のある、一束の長い髪。

それと対照的に全身を包む、白い服。大きな帽子。

まさに"大空"のような女だった。
不思議な直感力を持ち、自身の優しげな雰囲気でいつも場を和ませた。

そんな彼女が、最初は煩くて堪らなかった。
俺達が"選ばれし7人"として初めて顔を合わせた時だって、一人で皆に笑いかけ、手作りのクッキーやら何やらを配っていた。
その時はまだ俺もそのへんの媚売りと変わらないと思っていたし、それ以上の感情を抱くなんて思いもしなかった。
だが…いつからだっただろうか。その行為を、煩いと思わなくなったのは。

『…いや、』

もしかしたら、会った時から決まっていたのかもしれない。


疑うのなら、私が先に毒味をしましょうか。用心深いヒットマンさん。


―ステキなのに。


ステキよ、そのクルンとしたもみあげ。




…いつか、そんな日がくるということが。

『…"運命"なんて信じねぇけどな…』

そう、運命なんて信じない。
でも、彼女の言う事なら信じていいと思った。

…もしかしたら、あの時彼女にはもう見えていたのかもしれない。

(俺が…いや、俺達がいつかアンタに惚れちまうってのがな)

全てを見透かす目を持っていて尚、逃げようとはしなかった。
その気高さ、崇高さは簡単に真似出来るものじゃない。
その優しさと母のような偉大さに、俺だけじゃない…呪いを受けた全員が見惚れたんだ。


ノン・トゥリニセッテに侵され自由の利かなくなってきた体を無理矢理動かし、ベランダの向こう側へと身を乗り出す。

『…俺は"運命"は信じねぇんだ』

もしここに、彼女がいたら俺の答えは違っていたんだろうか。…いや、たぶん一緒だ。理由は違ったにしろ、おそらく同じ事を思っていた。
他にこんな思いをする人はいなくていい、もう俺達で終わりにすればいい。そんな想いか、或は―…

―彼女を、守る為に。

先が見える分、俺達以上に辛い思いをしただろう。その苦労は俺には分からないけれど、彼女が誰にも言わずに泣いていたのは知っていた。

『大人しく死んでやる程、聞き分けよくねぇんだ』

指先すら動かすのが辛い、きっと俺もそう長くはない。だが信じてもいない運命に任せて死んでいく程ヤワじゃあない。

星が動くわ…私の運命と。そしてあなたの運命もね


『そう…だな』

星空を見上げ、一人ぽつりと呟いた。


―――――

どっちかっていうと、まとめ…?←




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