殺されるならあの日がよかった
灰色の冷たい煙が路地裏に広がる。吐き出したそれは,当たり前のように空に上っていった。
歩を進める度ピチャリピチャリと音がする。それは暗闇に融けていって,俺が歩みを止めれば必然的に辺りは無音の暗闇となった。自らの呼吸さえもまるでないもののようで,本当は呼吸なんかしていないんじゃないかという考えに駆られた。
(…なんて,な)
だがその考えは俺によってうまれる紫煙のせいで,すぐに消えていった。
本来なら酸素を取り入れ二酸化炭素を吐き出す為の行為の筈なのに.俺は自ら好んで有毒物質を体に取り入れている。そう思うと自然と自嘲じみた笑いがこみ上げてきた。
(何,してるんだろうな。俺は)
昔は自分の右腕を散々に言ってたくせに。人間矛盾なしに生きていく事は難しいのだけれど,あまりの自分の変わりようを笑わずにどうしろというのだ。
ふと下を見れば,まるで雨上がりのように大きく広がる水溜り。黒に飽和して分かりはしないけど,鮮やかな紅色の筈だ。でもきっと俺のスーツもこれに負けず劣らず紅いのだろう。たっぷりと鮮血を含んだスーツが,動く度ぐちゃりと音をたてる。あぁ.またこれも捨てる事になるのだろう。
この職に就いてから俺の金銭感覚はどんどんおかしくなる。マフィアのボスだかなんだか知らないけど,血も涙もない奴だよな。慣れれば殺しだって,何も考えずこなせるようになるんだ。
(殺される気持ちは,知らないけど)
足元の,頭部を銃で撃ち抜かれた死体に目をやる。殺すなら他にいくらでも方法があるだろうに,俺は悪趣味だったのか。
(殺されてみたい,なんてな)
銃口を向けられた時,どんな気分だった?
まだ生きたいと思った?悔いはあった?
死体に尋ねる俺はきっと狂ってる。でも俺が照準をあわせた時の奴等の表情が,あまりにも脳裏に焼きついていて。
(あまりにも鮮明で,生々しくて)
こいつ等の未来を俺が奪った。それは紛れもない事実であり,現実。殺らなきゃ殺られると家庭教師は何度も言った。俺がいなくなったら,ボンゴレがどうとか裏社会の治安がどうとかも。
(俺は,治安の為に生きてるのか)
今更そんな事どうだっていい。でも,考えたら無性に笑えてきて。
自らの命を削るに等しい行為をする事だって,自ら最前線に勧んで立つ事だって。
でもきっと俺は,死んだって天国になんか逝けやしない(行きたいと思った事もないけど)。手を汚しすぎただとか そんな理由もあるかもしれないけど,生まれた時からそうなると決まっていた気がする。
(それなら,)
こんな思いをする前に殺してほしかった。否,殺されればよかった。
(皆で馬鹿笑いして,なんでもない事が楽しかったあの頃に)
いつ死のうと,行く所が変わらないのなら,どうにもなりはしないのだろうけど。
(あわよくば,)
殺されるならあの日がよかった
(俺には,選ぶ権利すらないのかもしれないけど)
―――――
やんでる10年後綱吉の話。
題名と共に内容がすらすら浮かんできて,猛スピードでキーボードを叩いたモノ・苦笑
…てかあまりにも病みすぎましたorz
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