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恋詩華曲BN
優しい雨(王日)

「うわー、降ってきた」


六時過ぎ。時間を忘れて練習していたのか、帰宅を促す放送が流れてようやく気付く。
仕方なく帰ろうとした、昇降口でこの天気にばったりと。


「近いし走って帰るかな…」
「あれ、香穂ちゃん?どうしたの?」
「あ、王崎先輩」


走りかけたその時、偶然近くにいたらしい王崎先輩に話しかけられた。


「もしかして…傘忘れたの?」
「…実はそうなんです」


苦笑いを浮かべて私はそう答える。
すると王崎先輩は、


「良ければ送るよ。この前、きみに貰った折りたたみ傘があるし」


そう言いながら、持っていた鞄から傘を取り出す。
シンプルな色合いの、ファータ印の紺色の傘。


「良いんですか?ありがとうございます」
「どう致しまして。それじゃあ、行こうか」
「本当に助かりました。王崎先輩がいてくれなかったら私は今頃、びしょ濡れでしたね」
「間に合って良かったよ。きみに風邪なんかひかれたら…」
「こう見えても体は丈夫ですよ!…っくし」


なんて言ったそばから、早速くしゃみが出てしまった。



「大丈夫?」
「あ、大丈夫ですよ、全然…!?」


突然、王崎先輩は私を抱き締めた。
まるで、あたたかさを伝えてくれるような、やさしい抱擁。
多分、今の私の顔は、真っ赤だろう。だって、一気に体温が高鳴って、鼓動もやけに早い。



「ごめん。肩が半分濡れてしまってるね…」


自分は悪くもないのに、王崎先輩は申し訳なさそうに謝ってきた。


「お、王崎先輩は悪くないですよ!」


そんな状況で、顔を真っ赤にしながらも、私は言い張る。



「でも、きみに風邪なんてひかれるのは嫌だから」
「私だって王崎先輩に風邪ひかれるのは嫌です!」


少し強く言い過ぎたのか、王崎先輩は一瞬驚いて、それから微笑んでこう言った。



「きみにそう思ってもらえてるなら、嬉しいな。じゃあ風邪ひかない内に帰ろうか」
「はい」


そしてまた二人は歩き出す。今度は濡れないように、互いに肩を寄せ合って。
優しい雨に打たれながら。


END




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