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だから、僕は振り返らない。


衝撃的な一夜が明けて、僕が決心をしてから、随分と時が流れた。
あれから、心を入れ替えた僕は頭を下げて、地元、両親の待つ実家へ身を寄せた。
散々泣かれて怒鳴られて、親不孝だと言われたけれど、逃げないって決めたんだ。
此所から、もう一度歩き始めるんだって。

目を閉じれば一瞬一瞬が鮮やかに蘇って、忘れる何て、出来ないのに。口に出して説明しようとすれば、物語の中だとしか思って貰えないような体験だった。誰かに信じて貰えなくても良い。あった事全てを解って欲しいとは思わない。
だけど、弱かった僕の中に生きる火を灯してくれた人が居た事だけは、確かだから。
だってまだ、胸の奥に遺された言葉が生きている。
だからこそ、少しだけ強くなれた今、こうして立って居られるんだ。

荒川さんの名前はたまに雑誌で見るから、近況を掴む事が出来るけれど、詩音さんや反町さん、それから十和田さんはどうしているだろう。たまに、ふと思い出す。
笑って居て欲しいな。
今の僕が、在るべき場所で、そうして居るように、彼等にも。



あの強い真直ぐな瞳が、僕に勇気をくれた。
そう、まるで、あの瞬間、未来を託された気がしたんだ。
暗闇に佇んで、そうして手を差し延べて、くれたひと。


「…え、」


駅周辺の騒音を駆け抜けるように、走ってゆく、誰か。
緑色の髪を、高く括って、動き易そうな身軽な姿で。
風が、木々を掻き分けるような素早さで目の前を過去ってゆく。そして、遠く聞き覚えのある声に、少し幼さをプラスした響きで、誰かを呼んだ。


「おじさんだけ置いて行くかなぁ、普通」
「おいおい、先に行けって魅音が言ったんだぜ」


何を話して居るのか迄は解らない。
横断歩道の向こう側に行って終った彼女は、横顔すら、詳しくは解らなかった。
見覚えのある、緑色の髪が風に吹かれて、靡く。

彼女が生きて居る筈がないから、だとしたら、詩音さんの子供か、他人の空似か。
どんどん離れて行く背中を見詰めて居た僕の横で、良く似たもうひとりが叫ぶ。驚いて振り向いたら、同時に信号が替わって、彼女は駆け出した。


「こら、お姉!!逃げるなー!」


その顔を、姿を、僕は知っている。
どくん、と、心音。
偶然だと言うなら、きっと、これ程の喜びはない。
出逢えたんだ、彼女達は。この場所で、もう一度。
じわりじわり、涙腺を刺激する熱いもの。
良い歳した大人が、女の子の背を見て泣く何て、ひどく格好付かない。
だけど、嬉しかったんだ。何よりも、奇跡に似た、この光景が。

何時かまた出逢えたなら、魅音さん達に誇れる僕で在ろうと思う。
そうだ。だから、僕は振り返らない。
前を向いて、未来に、真直ぐ歩き出した。











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2215.村棋沙仁




めっさ捏造ですみません。
乙部彰が好きです(はいはい)

上手い事書き表せない自分にガッカリだ!







あきゅろす。
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