朝が、来る。
それはきっと。願いだった。
人一倍騒がしい女の子だった。
色んな所に仕掛けを繰り返して、人の目を潜って、また罠にハメる。
彼女は天才だった。
悪戯のエキスパート。
トラップを仕掛けることに於いて、北条沙都子の右に出る者はいない。
クラスメイトとして、仲間として、彼女の過去を知っている。
幼くて、なんの力もない小さなこどもだけれど。
幸せになって欲しいと思った。
はじめて出会った時、眼が合った。
ふたりでトラップに当った、入学式の、朝。
隣りの同じ色した輝く髪の、その男の子に笑い掛けた幼い、笑顔。
八重歯が覗いたその、無邪気で明るくて、あどけない、
幼いと言うなら、きっと自分も変わらないだろうけれど。
それでも、彼女のことは。
守りたいと、思った。
もっと。その平和な、かわいい表情を見ていたいと。
その時僕は確かに、
願ったくせに。
「にーにー、にーにー…ッ」
助けて、と彼女は泣いた。
居ない影に手を伸ばして、
在りはしない存在に縋るように、
彼女の大好きで大切なにーにーは、
祭の夜にぬいぐるみごと、
イナクナッタ。
そうして、いつか、彼女は感情をコロシタ。
彼女が泣いても、叫んでも、
身体は動かなかった。
都合の良い時だけコドモのフリをして。
僕は何もしなかった。
しようとしなかった。
好きだと、気付いた時にはもう、
あまりに、遅すぎた。
何もかも。
どうすれば、良かったのかわからない。
そうだ、今も、
待ち受けるのは、滅びの。
ふらりふらり、薄らいでゆく意識。
空気が、重い。世界が終わってゆく。
ああ、もしもひとつだけ願いが叶うのならば。
彼女がまた笑ってくれれば良い。
出来れば、彼女の大好きな兄の隣りで。
そうして、僕はまた朝から罠に掛かって、掃除当番を変わってと頼まれるんだ。
「北条、」
朝はきっとやって来る。
それまで、もう一度眠るだけ。
眼が覚めたら。
伝えたいコトがあるんだ。
出会えたこと以外の、君の涙が全部、夢だったらいいのに。
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20.11.17 むらきさひと
まとまりないなぁ。
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