強襲A

 触手に襲われ、死体が転がる部屋……だが、触侵の惨劇はこれで終わったワケではなかった。
 ドアのところで、体の穴から触手に侵入された女が、ゆっくりと立ち上がり。片腕で何かの指示をするような仕種をした。

 蠢く黒触手の一群が脱皮をして、中から黄色触手が現れる……黄色触手は、絶命している元老院の胸の穴へと侵入していく。侵入された人間の傷口が黄色い触手の糸で縫合され、肉体を奪われた死体たちがゆっくりと立ち上がる。

 給事女たちの倒れた体の切断された断面から黄色い触手が侵入して、首なしの体がユラユラと立ち上がる。
 胴体の断面からは血液の代わりに黄色い液体が、滝糸のように流れ。
 首なしの体は近くに落ちていた首を、自分の首も他人の首も関係なく拾い上げて切断面と合わせた。

 黄色い触手が傷口に癒着して、縫合糸のような黄色い糸となって首と胴体を縫いつけていく。
 成熟した巨乳女性の体に童顔少女の首……性経験豊富そうな人妻の体に、清楚な処女の首。
 胴体と頭部がアンバランスに結合されて、甦った給事女たちがケラケラ笑う。
 甲冑姿の騎士団団長たちの首なし死体の断面にも、黄色い触手が侵入して。 首なし死体が立ち上がった。本来の首とは異なる別人の首を無差別に拾い上げて胴体に乗せる。

 女騎士団長の首も屈強な若い男騎士団長の胴体と癒着させられ、女の顔に男体の奇怪な姿で甦った。
 女騎士団長の女体の方も、別の男性騎士団長の首を乗せて甦る。
 すべての人間が触手に肉体侵入された骸〔むくろ〕の形で蘇生すると、室内に蠢いていた触手たちは床や壁の隙間に消えた。
 血痕も無い部屋で最初に穴侵入をされた給事女と、首だけが女騎士団長は目配せをしてうなづき。
 触手を体内に宿して甦った死者たちは、何事も無かったように部屋から出た。

 王宮内の中庭回廊を並んで歩いていると、女騎士団長に話しかけてくる者がいた。
「騎士団長、どうなりました? サーコ姫の婚礼の儀の警護は?」
 若い騎士の男性……ユズキだった。
 ユズキは無言の女騎士団長に、なおも話し掛ける。
「騎士団長……どうして他騎士団の紋章が入った甲冑を着ているんですか?」

 ユズキは、列の後方に並び立っている、自分たちの騎士団紋章が入った女性甲冑を着込んでいる、男性騎士団長を不思議そうな顔で眺めた。
 ユズキから話しかけられた女騎士団長は一言。
「何も問題はない」
 と、言うとユズキの前から去っていった。


 王宮首都と北の村を繋ぐ街道の中間地点にある、宿屋兼用の食堂に……凍騎と村娘に化けたティティスはいた。
 凍騎とティティスが椅子に座るテーブルに、料理が盛られた皿を持ってきた食堂の女主人が、凍騎の前に皿を置きながら言った。
「はいよ、今日のおすすめ料理……山鳥の香草焼きと、川魚のクリーム煮だよ」
 凍騎は出された料理を眺めながら、木製のコップに入ったアルコール飲料を飲む。
 ティティスは、自分の前に置かれた料理を木製のスプーンで、つついたり掻き回して遊んでいた。
 女主人が凍騎に訊ねる。
「あんた、北の村の方から来たんだって? 北の村で何かあったのかい? 昨日から物資も人もパッタリと途絶えているんでね……何か知らないかい?」
「さあ、自分たちは王宮に向かう途中なので」
 恰幅が良い女主人は、食べ物をグヂャグヂャと弄んでいるティティスを、不快そうな表情で眺めながら凍騎に言った。
「そうかい、王宮と言えば。ほら、あそこの席に座って食事をしている初老男性のお客も、王宮から来て北の村に向かう途中だと言っていた……なんでも『王宮薬剤師』で、北の村に住む『占い師』の家系に重大な用事があるそうだ」
「ほうっ、占い師の……」
 女主人が去ると、凍騎は何やら思案をしている仕種をみせる。
「王宮に行く手間が省けたかも知れないな……まさか、こんなに短時間で『対触手生体兵器』の情報が入手できるとは」
 凍騎は、子供のように食べ物で遊んでいるティティスに言った。
「ティティス、それは食べ物だ……栄養摂取の為に体内に取り込め、これから一仕事してもらうからな」
 ティティスが化けた村娘は、皿に口を近づけると動物のように食べはじめた。

 小一時間後……食堂の二階にある、宿泊用の部屋で『王宮薬剤師』の初老男性の「うぅ……うぅ」という呻き声と、ベットが軋む音が聞こえてきた。



[前の穴へ][後の穴へ]

6/9ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!