海百合の花咲く頃C
 
 凍騎がサーコに質問する。
「『グリーン・キャッツアイ』に関する事柄で、何か緑山家に伝わっているコトはありませんか」
「わたくしの祖祖父が貧困だった時に、食べ物を求め深山で緑色の【虹蟲】に会って頭の中に響く声で、こう言われたそうです『おまえが我ら緑色の虹蟲を崇拝して、安住する隠れ地を用意するなら。植物に関するコトでおまえを助け、一代で財を築く手助けをしよう……この結晶は、おまえと我らの約束の印だ』と、言われ緑色の宝玉を渡されたそうです……その後、祖祖父は農作物に関する事業で次々と成功して莫大な資産を得て、現在の緑山家の基礎を作りました……緑色の虹蟲は緑山家にとって、幸福の守り神なのです」
「なるほど……そして、渡された宝玉の針が示している先が、緑色虹蟲の隠れ地なのですね……あっ、これも探偵の情報網で得たコトですが」
「探偵さんは何でもご存じなのですね……わたくし、犯行予告日時にはどうしたら良いのでしょう? その日は、ある方と栄国歌劇団の歌劇を観に行く約束をしていまして……やはり、事情を説明して屋敷からは出ない方が良いのでしょうか?」

 浪漫惑星には国家警察の類いは存在するが、民間犯罪を捜査したり犯人逮捕をするような警察組織は存在しない……せいぜい、金持ちが所有する私設警察か。町民が組織する、防犯組織が存在するだけだ。緑山家は私設警察は保有していない。

「いいえ、屋敷内に留まるのは怪盗Q2にとっては。むしろ好都合でしょう……人目が多い場所に、本物の『グリーン・キャッツアイ』のネックレスをして出掛けてください。観劇の約束をされているのは、どなたとですか?」
「陸上軍部の将校の方です、親同士が決めた許嫁〔いいなずけ〕です」
「その方を愛しているのですか?」
 サーコは少し、はにかみながら「はい……愛しています」と、答えた。
 その時、ドアの扉をノックする音が聞こえ執事の声が聞こえてきた。
「お嬢さま、陸上軍のユズキさまが、おいでになられました」
「わかりました、すぐに行きます……探偵さん、では失礼します」
 サーコが部屋から出て行き、凍騎が窓際から中庭を眺めていると。
 ドレス姿のサーコと、カーキ色の軍服を着た若い将校が、談笑しながら親しげに並び歩いている姿が見えた。
 二人を眺めながら凍騎が呟く。
「あの将校が許嫁か……ふむっ、おもしろい。アレは使えそうだ……一芝居打って、犯人の反応をみるか
 凍騎はベットの下から銀色に輝くジェラルミン製のスーツケースを引っ張り出すと、ケースのフタを開けた。
 中には金色に輝く触手王の分身が、渦巻きソーセージのように収まっていた。
 触手王と同じ意思を持つ分身が、鎌首を持ち上げる。
《どうした凍騎? このケースを開けたからには、それなりの重要な状況だろうな》
「触手王分身さまの、お力を少しお借りしたいので……実は」
 ティティスは凍騎と触手王分身の密談を、首を傾げながら聞いていた。


 数日が経過した夜『犯行予告日時前夜』……その日の天候は荒れ模様で、豪雨が屋敷の窓を打ちつけ。木々が風に激しく揺れていた。
 屋敷の食堂には、サーコお嬢さまと、凍騎、ティティスの三人が食事をしていて。小太りの執事を含む使用人たちが給仕をしている。
 雷鳴が鳴り、稲光が走るたびに、フォークとナイフを持つ手を止めて、ビクッとするサーコに凍騎が話しかける。
「雷は嫌いですか?」
「はい、子供の時からあまり好きではありません」

 そう言ってサーコが窓の外に目を向けた時、稲光の中に人影が見え……サーコは悲鳴をあげた。
「きゃあぁ!? 今、そこに誰かが立っていて!?」
 屋敷内の電気が消え、騒然となる食堂……次に稲光が光った時、サーコから少し離れた壁際に立つ黒い人影が一瞬見えた。
 黒いシルクハットとマント……顔を金色のノッペリとした仮面で隠した怪人物の姿が。
 黄金の怪人がマントをひるがえすと、稲光が途絶えた室内が暗闇に包まれた。 執事の声が響く。「誰か、廊下の壁にある、緊急蒸気発電機の始動レバーを!」
 地下室の蒸気発電機が唸る音が聞こえ、屋敷内に明かりがもどり。
 怪人物の姿は室内から消えていた。

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あきゅろす。
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