海百合の花咲く頃B

 全裸でベットの上に仰向けで横たわったティティスが、窓際に立つ凍騎に訊ねる。
「だけれど、どうしてこんな面倒くさいコトをわざわざやるんですか……触手王さまの指示は、あの緑色の宝玉を手に入れるだけなのに? 探偵とか探偵助手を演じる意味が、あたしにはわかりません……怪盗Q2っていったい?」
「おまえは触手王さまの真意を読み取っていない……単純に宝玉を探し出して手に入れるコトだけを、触手王さまは望んでいない」
「そうなんですか、あたしにはよくわかりませんが。凍騎さまにお任せします……ところで前々から気にはなっていたんですが、凍騎さまのお母さまってどんな人なんですか?」
「なんだ、いきなり」
「話したくなければそれでもいいんですが……少しだけ凍騎さまの過去に興味を抱いたもので」
「別に隠す必要もないがな……オレの母親は……ある男の【催眠奴隷】だった」
「【催眠奴隷】?」
「学生時代の母親に邪な恋心を抱いていた男……この場合は、オレの父親になるのか……その男から【催眠】を処術され処女だった母は【催眠奴隷】にさせられて強制的に性的関係を結ばされ受胎させられ……オレを出産した。
聞いた話しだと、オレを生んだ瞬間も催眠状態で、子供を生む喜びは無かったらしい……母親はオレを生んですぐに亡くなった」
「それでは凍騎さまは、生まれてから一人でエサを求めて成長したと?」
「オレを触手と一緒にするな、オレを育てたのは母親に催眠を掛けた男だ。一度も父親だとは思ったコトはなかったが、オレを医大に行かせてくれたコトだけは感謝している……その男も数年前に亡くなったがな。言っておくがオレの過去話は、今回の事件とは無関係だ」

 そこまで一気に話し終わった凍騎は、気持ちを切り替えるように、少し推理する仕草をした。
「執事から受け取った犯行予告文の本文と、犯行予告日時の筆圧が紙の裏側を触った時に異なっていたな……おそらく、本文は固いテーブルの上で書いて。犯行予告日時は後から柔らかい雑誌の上で書き加えたモノだろう……ふむっ、なんとなく真相が少し見えてきたな」

 その時、部屋のドアをノックする音が聞こえ。ティティスが裸体から着衣姿へと変わる。
 部屋を訪れたのは緑山 サーコだった。サーコが言った。
「探偵さんに、少しお話ししたいことが」
「なにか?」
 凍騎が差し出した椅子にサーコは座った。サーコは胸元の宝玉ネックレスを撫でながら話しはじめる。
「実はこの家宝のネックレスのコトですが……」
 サーコが話し 終わる前に凍騎が言った。
「それは偽物ですね、本物は別の場所にある……厳重な金庫にでも、すでに保管してあるのでは」
 サーコが凍騎の言葉にタメ息を漏らした。
「やはり、気づいていましたか」
「初対面の探偵に簡単に家宝を手渡して、見せるはずがないですから……それに本物の『グリーン・キャッツアイ』は猫目の針が、ある方向を示していると聞いています。その宝玉の針は動かないから偽物だと」
「その通りです……これは、お父さまが職人に細工をさせて作った、紛い物です……なぜ? 猫目の針が動くと知っていたんですか? そのコトを知るのは、お父さまとわたくしだけのはずなのに?」
「いやぁ、探偵ですから……いろいろと情報の入手は日頃から」
 サーコの鋭い指摘に、珍しく少し慌てる凍騎。
 さすがに触手王経由で得ていた情報だとは言えなかった。


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あきゅろす。
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