海百合の花咲く頃A

「お父さまが異国に渡って事業をしている今は、屋敷の主人はあたしになるわね……【虹蟲】って本当にいるのかしら?」
 サーコの言葉に顔をしかめる、小太りの執事。
「屋敷の使用人の間で伝わっている単なる言い伝えです。そのような生き物、屋敷では一度も見たコトがありません」
「そうね……いるはずないわね」
 視線を窓の方へと移したサーコの表情は、どこか寂しげだ。
 町の上空には、プロペラを回して飛ぶ、楕円形型をしたツェッペリン型飛行船が浮かんでいた。
 小太りの執事が飛行船を見て言った。
「あの飛行船、この間から飛んでいますな……さぁ、お嬢さま屋敷に戻りましょう。どこで怪盗Q2が狙っているかわかりません……屋敷に名探偵を呼びましたから」
「そうね」

 小太り執事と緑山家のサーコお嬢さまは、屋敷へと戻った。屋敷には探偵とその助手がすでに到着していた。
 背広姿で蝶ネクタイをした、探偵の凍騎と。メイド服風の外出着を着た探偵助手のティティスがサーコと執事に頭を下げて言った。
「探偵の鬼頭 凍騎と、助手のティティスです……早速ですが怪盗から送られてきた、犯行予告文を見せていただけませんか」
 執事から「この予告文が二日前に、屋敷のポストに直接届けられていて」と、言って一枚の用紙が凍騎に手渡された。
 渡された用紙に凍騎は目を遠し、傍らのティティスも犯行予告文を覗き込む。
 凍騎が紙の裏側を撫でながら呟く。
「なるほど、緑山家に伝わる宝玉ネックレスと、サーコお嬢さまの肉体を奪いに参上すると……狙われている、宝玉ネックレスは今どこに?」
「ここに」
 サーコが首に掛かけていた、ネックレスを外して凍騎に見せる。
 緑色の宝石の中に金色の筋が猫の目のように入っている、宝玉だった。

「緑山家に代々伝わる宝玉で『グリーン・キャッツアイ』と呼ばれています」
「見事な宝玉ですね」
 凍騎がネックレスをサーコに返すのを見て、心配顔の執事が言った。
「やはり、緑山家家宝の宝玉ネックレスは、厳重な金庫に保管した方が良いでしょうか……サーコお嬢さまにも、ネックレスは体から離して安全な場所に保管する方が良いと進言してはいるのですが。聞き入れていただけなくて」
 凍騎は首を横に振る。
「いいえ、今はまだ犯行が予告された日時ではありませんから……サーコお嬢さまが身に付けていても、差し支えないでしょう。この段階で下手な細工をすれば、怪盗Q2の思惑にハマりかねませんから」
「そうですか」
 小太りの執事は小さなタメ息を漏らした。
 凍騎が言った。
「それでは、わたしとティティスは部屋にもどって今後の対策を練りますから……大丈夫です、宝玉もお嬢さまも両方、怪盗Q2には渡しませんから」
 凍騎とティティスは屋敷の中の与えられた、部屋にもどった。

 部屋に入るなりティティスが体をほぐすように、両腕を頭上に伸ばしてストレッチをする。
「う〜ん、なんだかいつもの触侵と勝手が違う星ですね……凍騎さま、裸になってもいいですか?」「屋敷の者に見られないようにな」
 ティティスの衣服が変化して、ティティスは裸体になった。



「ふぅ……やっぱり裸が一番ですね、凍騎さまは脱がないんですか?」
「オレは脱がない、誰が部屋に来るかわからないからな……浪漫惑星の文明レベルなら、部屋に防犯カメラや盗聴器の類いは仕掛けられていないだろうから」
「そうですか……それにしても、その変な蝶ネクタイとアナログな腕時計が、一般的な探偵のスタイルなんですか?」
「腕時計には麻酔針の発射装置が付いていて、蝶ネクタイには声を別人の声質に変化させるスピーカーが内蔵されている」
 ティティスは興味無さそうな顔で「そうですか」と、言った。

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あきゅろす。
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