海百合の花咲く頃@

 女性の内部女性性器、子宮と卵巣と膣の形に似た生物的な宇宙母船の一室。

 円筒形の培養カプセルの中に胎児姿勢で浮かぶ地球人女性のクローン体を、凍騎は唇を噛み締めながら眺めていた。
 成人した女性裸体のヘソの穴に人工胎盤と繋がる、白い管状の人工臍帯〔さいたい=ヘソの緒〕の中には、螺旋状に絡み合った赤い動脈と青い静脈が見えた。
 胎児姿勢で手足を曲げて人工羊水の中に浮かんでいる、地球人女性のクローン体は『ライナ』の顔をしていた。
 凍騎が複雑な表情でティティスに訊ねる。

「これは何だ? なんの目的でこんなモノを作った」
「排卵卵子から、クローン培養して作ったライナです……凍騎さまを、肉体的にお慰めするために作りました。あたしが化けた偽物では凍騎さまを満足させられそうに無いと判断したので」
 凍騎が苦い顔をする。
「また、余計なコトを」
「お気に障るようでしたら、処分しますが……廃棄溶解するのは簡単ですから」
「いや、処分はしなくてもいい」
 凍騎は培養カプセルの人工羊水の中で、ビクッと手足を動かしたライナを眺めながら言った。
「使い道はあるかも知れないからな……このまま誕生させろ。触手王さまからの次の触侵惑星指示は届いているのか?」
「はい……次の触侵はこの惑星です」
 壁の楕円モニターに、黄色っぽい惑星が映し出された。
 陸地と海洋の割合は、地球よりも海の方が少し多い。
 大陸の中には風に髪をなびかせた、女性の横顔のような形をした大陸もあった

「文明レベルは地球の大正時代に酷似しています……蒸気機関が文明のエネルギー主軸のようです」
「おもしろそうな星だ……『浪漫惑星』とでも呼ぶべきか」
「今回の触侵には触手王さまから、特別な指示が入っています」
「特別な指示?」
 ティティスから触手王の指示を聞き終えた凍騎は、腕組みをして浪漫〔ロマン〕惑星を眺め呟いた。
「それはまた、厄介な指示だな……砂漠の砂の中から、色違いの砂を一粒探し出すようなモノだ」
「ある程度の情報は収集して地域の特定はできていますから……惑星への侵入は、どのような方法で? 王宮惑星の時のように精子型宇宙船で、侵略触手たちに混ざって侵入しますか……それとも、地球の時のように触手に擬態させた飛行物体で?」
 擬態飛行物体での惑星飛来は、触侵を行う惑星の文明水準や、星に住む者の意識段階によって異なる……ある時は、天かける黄金の方舟に擬態して飛来したり、円盤や球体や多面体などさまざまな形に擬態して惑星侵入する。
「そうだな、今回はできる限り目立たない飛行物体がいいな……飛行船の形に擬態して侵入しよう」
「了解しました」
 凍騎とティティスは宇宙空間で、プロペラを回転させている飛行船に擬態した。触手宇宙船に乗り込むと『浪漫惑星』へと向かった。


『浪漫惑星』栄都……蒸気自動車が走り、蒸気ラジヲから流れる歌謡音楽がモダンな喫茶店内に流れる町。
 一人の令嬢が喫茶店の窓際席に座り、雑踏の人々を眺めていた。テーブルには飲み終えた珈琲カップ……喫茶店には場違いな麗しき雰囲気の令嬢は、喫茶店の壁に貼られている。
 女性だけで構成された『栄国歌劇団・海組』の歌劇【緑森の花嫁】公演告知ポスターに視線を移す。
 男役を演じている歌劇団員と、寄り添うように立つ女役の歌劇団員をジッと見ていた令嬢を呼ぶ声が聞こえた。

「サーコお嬢さま、探しました……また、このような俗世の店に出入りをして」
 見ると、小太りの老執事が汗をハンカチで拭きながら立っていた。
 小太り執事が言った。
「先日、お屋敷に『怪盗Q2』と名乗る謎の人物から『近いうちに屋敷にある緑の宝玉ネックレスと、サーコお嬢様の肉体を奪いに参上する』との、犯行予告状が届いたばかりだと言うのに……さぁ、安全なお屋敷に帰りましょう」
 サーコは壁のポスターを眺めながら、執事に言った。
「ねぇ、知っているかしら。この歌劇団が舞台練習の最中、床下で動く【虹蟲】が見た人がいるって噂」

【虹蟲】〔にじむし〕とは、サーコの家系に伝わっている、幸福をもたらす細長い生物の名称だ。
 特に緑色の虹蟲は屋敷を守り、繁栄をもたらすと伝えられている……さらに、屋敷主の願いを一つだけ叶えるとも伝えられていた。



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