地球触侵C

「ティティス、触手王さまは『太古に地球に侵入した触手たちと協力して、触侵を成功させろ』と言っていたな……もっとも古い時代に侵入した触手はいつ頃の触手だ?」
「記録では“カンブリア期”に地球に侵入した触手一群がいて、地球の生態系に影響を与えたと……アノマノカリスという肉食生物の脅威天敵となって、ピカイヤという軟弱な脊椎生物の先祖を繁栄させたと……次に地球に飛来した触手小惑星は、恐竜を絶滅させたそうです。人間の時代になっても随時、地球に侵入した触手が歴史に影響を与え続けてきました」

 ティティスは、地球に潜伏している触手たちの現状を凸面モニターに映し出して説明し続ける。
「ある触手は各国の政府要人の体内寄生〔パラサイト〕に成功して、歴史を誘導するような触侵活動を続けています……動乱や革命……大戦の裏にはなんらかの形で、人間にパラサイトした触手が関係しています」
「そんなコトが人類歴史の裏側で行われていたのか……なぜ、そこまで活動をしているのに堂々と本格的な触侵に移行しない?」
「軍師、参謀役となって統合した指揮をするメインな触手がいなかったからです……触手王さま以外の指揮系統が無かったから、時期を待っていたのです……バラバラに触侵を開始しても効果は期待できませんから」
「他にはどんな触手が地球には潜伏している?」
「破壊兵器を無力化できる触手……エネルギー供給を遮断できる触手……電子機器を狂わせ、使用不可能にできる触手がいます……人間以外の動植物とは太古に侵入した触手の力で共存しています」

 凍騎はティティスの話しを聞いて苦笑する。
「文明が進歩する前に、触侵すれば強力な兵器も無く簡単に触侵できただろうが……なぜ? わざわざ、人類が強力な武器を保持するまで待ったんだ」
「凍騎さまは、レベルが低いゲームを楽しめますか」
「???」

「代々の触手王さまは、地球を特別なゲーム場と位置づけて、触侵を最高に楽しむために人類進化や人類の歴史に介入して手を加えてきました……少々、手を加え過ぎて。触侵が困難になってしまいましたが」
「そういうことか」 腕組みをして、モニターに映る地球を眺めていた凍騎が言った。
「ティティス、地球に潜伏している触手群に連絡をとれ……これより地球への『触侵』を本格的に開始する、潜伏している触手たちにはいつでも、一斉『触侵』の準備をしておくように伝えろ」
「了解しました」
 床に沈み込むように消えようとしていたティティスは、恥毛の位置で触手床に潜るのを中断すると凍騎に質問した。

「なぜ、あの時、恋人のライナの事故の記憶を消去してくれるように触手王さまに頼み、ライナを地球に残したのですか?」
 凍騎は有機質モニターに映る地球を眺めながら。
「おまえには、関係ない」
 と、吐き捨てるように言った。

 そして、凍騎とティティスは未確認非行物体に擬態した触手円盤に乗って、触手本隊を天王星付近に待機させたまま、地球へと向かった。


 地球……とある、アパートの一室。残業から自室に帰ってきたライナは、室内に人の気配を感じた……嗅ぎ覚えがある男性香水の香り。
 明かりをつけると、そこに立っている凍騎の姿があった。凍騎がライナに言った。
「久しぶりだな、元気だったか」
 凍騎の姿を見たライナは足早に凍騎に近づくと、平手で凍騎の頬を叩いた。
 ビンタをした直後、ライナの目に涙が浮かぶ。ライナが涙目で言った。
「今まで、どこで何をしていたのよ!! 行方不明になって三年も……心配していたんだから」
 ライナは離れた机の上に飾ってあった凍騎と並んで撮影された写真を指差す。
「『大切な話しがある』って言って峠道のドライブに凍騎が誘ったあの日……いったい何があったの?
 気が付いたら峠道に一人で立っていた、ガードレールが壊れていて、あたしと凍騎が乗っていた車が崖の途中で樹に衝突して止まっているのが見えた……凍騎の姿はどこにもなくて……いったい、あたしと凍騎の身に何が?」

 ライナが疑問に満ちた視線で凍騎を問いただしていると、浴室からシャワーを浴びて首にバスタオル一枚を引っ掛けただけの、裸のティティスが出てきた。
 ティティスがライナに言った。
「シャワーを借りた、体に付着したこの星の雑菌と汚れを洗い流した」
 ライナは、突然現れた裸の女に驚き、そして凍騎を睨みつけて言った。

「その女、何!? どうして、あたしの部屋のシャワーを、浴びさせているの……説明して凍騎」

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あきゅろす。
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