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清らか交際/柳生比呂士

毒のような言葉が、ななしの耳に流れ込んでくる。毒を流し込む相手は、じわじわと浸食されるななしを見下ろしながら、再びその唇から毒を紡ぎ出す。


「愛して、いますよ」


たった一言、それも陳腐な言葉を丁寧に噛み砕いて、ななしの耳へ注ぎ込んでいく。


もう十数回と繰り返されたその行為。がっちりと柳生の腕に拘束されたななしに抗う術もなく、泣き出しそうな顔をしながら小さく震えていた。


端から見れば、それはなんて奇妙な光景なのだろう。気味の悪い、といっても良い。


「…んぷっ……」


ななしの柔らかな頬に爪を食い込ませて、その顔を固定させる。無理矢理こじ開けられた口の中に見える舌は、きゅうっと怯えるように縮こまっていた。


前歯同士がぶつかったのか、カツンと小さな音を立てて柳生は噛みつくように唇を押し当てる。思わず顔を引いてしまうななしを叱咤するように、その細腰を強く引き寄せた。


うっすらと開いたななしの瞳を、ギラギラとした鋭い柳生の視線が射抜く。


「…や…ぁ…」


両手を突っぱねてみても身体が離れるのは一瞬で、すぐさま唇を塞がれてしまう。ずぶり、と舌を差し込まれてななしはか細い鳴き声を上げる。


怯えているとはいえ、好きな相手との口付けはやはり官能的で。ななしの理性も、だんだんと溶かされていく。


もじもじと膝頭を擦り合わせてみれば、スカートの中からは小さな水音が聞こえるし、下着がしっとりと湿ってきているのは、ななし自身が一番よく分かっている。


制服の下で硬く主張し始めている柳生のモノも、惜しげもなくぐいぐいとななしの下腹部に当てられている。こんな事をされたら、嫌でも意識してしまうのに。


それなのに柳生の手はななしの腰を撫でるばかりで、スカートの中に手を入れる事もブラウスのボタンを外す事もない。ただただ、深く貪るようなキスをするばかり。


もっと触ってほしい、とななしはいつも思うのに、柳生は絶対にそれ以上の事はしない。


勇気を振り絞って自分からしてみようかとも思ったときもあったが、"紳士"な彼氏に嫌われたくなくてななしはいつも、半端な高ぶりに身を悶えさせるしかなかった。


「…ぁっ…んん」


だから、柳生から執拗に求められるキスがななしは苦手で仕方がない。それでも身体は毎回反応してしまうのだから、困ったものである。


「…っ…ハァ……」

「愛してます」


ようやく唇が離れたと思ったら、その口からまた甘い毒を流し込んでいく。


「愛してます」


吐息がかかるほどの近距離で、たっぷりとななしに言い聞かせる。飲み込みきれなかった柳生の唾液を滴らせたまま、ななしは小さく頷いた。


清らかで拷問的な交際は、一体いつまで続くのだろうか。





あきゅろす。
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