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小話
healing(ハオ葉)

ぷしゅっと弾けた赤い水が網膜に焼きついた時、ああオイラにもこんな綺麗なモノ出せたんかと思った。
それ位、久しぶりに見たその赤が鮮明に映ったのだ。

が、それも束の間で後からじんじんと心音に合わせて痛みがくるのと、不覚にも血が散ってしまったキャベツをどうするかに思考は切り替わる。
傷口から溢れる血は止まることなく、床にたれ落ちてしみを作っていった。

「あ…やべ」

片手に握っていた包丁をまな板に置き、とりあえず水道水で指を洗う。
冷たい水がむき出しの肉に触れ、またぴりっと痛みが走った。

「切ったの?」

突然後ろから体を包み込まれて、耳元で囁かれる。
規則正しく響いていた野菜を切る音が途絶えたので、様子を見に来たらしい。
だからってまとわり付いてくることないのになとは思うが、言ったからといって聞く相手ではないので言わなかった。

「おお、ちょっとだけな」

抱きしめられたまま、既に洗い流した指をティッシュで軽く拭く。
まだ完全に血は止まってなくて、透明な水に混じって赤い模様が滲んだ。

「舐めてあげよっか」

言いながら左手を掴んで自分の唇に寄せる。
抵抗する間もなく、葉の指はハオの口内に含まれてしまった。
ゆっくり患部の上を蠢く生暖かい舌がなんだか生々しく感じられて仕方ない。

「…赤くなってるね」

葉の顔を一瞥したあとにやにや笑って、一応絆創膏とって来るよとか言いながらやっとハオは離れた。
葉は何だかとても悔しく、かといってなにをすることも出来なかったために、ただハオの方を睨む。
傷口は痕を残すこともなく綺麗に治っていた。

「もう少しマシな治し方はないんか…」

ぽつり呟いた言葉は、多分ハオの耳には一生届かないだろう。
自分に都合がいいようなことしか聞こえない便利な耳を持っているから。

葉は手当てよりも、なかなか引かない顔の熱と治まらない心臓をどうするべきかと思案した。


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あきゅろす。
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