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小話
君へ。(ハオ葉)

「誕生日おめでとう、葉」

ひぐらしも鳴き終わり、星がちらつき始めた宵のうち。
突然現れた葉の兄はにっこり笑顔でそう言った。


8月。夏。
なにもしなくても汗が滲む日々をマイペースに過ごしていた葉も、あまりに時期はずれな祝いの言葉に困惑した。

「誕生日って…3ヶ月くらい前の話だぞ?」

久しぶりな再会にも関わらず、何も変わらないゴーイングマイウェイな兄に呆れて言いながら、葉は今年の誕生日当日を思い返した。

3ヶ月前。
自分と同じ日に生まれた双子の兄のことを、葉は面には出さずともずっと考えていた。
そのせいでいつも以上にボーっとしてしまい、アンナにシャキッとしなさいと怒られたくらいだ。

すでにこの星の神様になってしまったハオに、どう伝えたらいいものか。
もしかしたら以前のように前触れもなく現れるかも知れないという淡い期待もあったが、そんな葉の思いなど露ほども知らないというように時間ばかりがいたずらに過ぎていった。

夜になり、友人たちがくれた個性あふれるプレゼントを改めて眺めていると、素直に嬉しいと思う反面、どこか物足りないという気持ちもあって。
自分をこんな気持ちにさせたハオを少しだけ恨めしく思いながら、葉はひとり床についたのだった。


「あの時は、葉があいつ等と日本で唯一ゆっくり出来る日だったからね。邪魔をしては悪いと思ったんだよ。」

気を使ったんだと言い張るハオの顔は、それでも先ほどからにやにやと笑っている。
その表情から、自分の様子を見て楽しんでいたのだと、これまで幾度も似たような経験をしている葉が理解するまで時間はかからなかった。
途端に顔面に血が一気に集まり、恥ずかしさと悔しさから葉は思わずハオに飛びかかった。
腹が立つくらいに、ふわりと優雅に避けられてしまったが。

「話を戻して――」

突撃に失敗してぶつけたおでこをさする葉を面白そうに見ながら、ハオは言葉を続ける。

「先刻葉が言ったのは、僕と葉が茎子の腹から出てきた日だろう?僕が言ってるのは、この世に葉っていう存在が誕生した日のことだよ」

「…へ…?」

きょとんとする葉と目線を合わせ、ハオは葉にもわかるようにゆっくり話し始めた。

16年前の今日、それまで影も形もなかった場所にふたつの命が宿った。
平安時代に大陰陽師として名を馳せた麻倉葉王が自らの力をもって現代に転生した日。
ハオは千年前には無かった“半身”と十月十日の時を共有することになった事実を、自分と対するもうひとつの魂を感じた時、初めて知ったのだった。

「当時の僕にとっては計算外の出来事だった」
「オイラが…ハオとふたつに分かれた日…?」

言われてみると、葉はとても不思議な気持ちになる。
葉にとしてはハオとずっと同じ腹の中にいたということさえ非現実的に思えるのに、そんな細胞分裂レベルの話がすぐにピンと来るはずもない。

けれど、確かにその瞬間はあったんだろうと思う。
現に、今ここにはハオと自分の二人がちゃんと存在しているのだから。

「そっか…だったら、確かに今日はオイラの誕生日かもしれねぇな」

そう言ってほんのり頬を染めて照れくさそうに笑う葉の顔を、ハオは身を屈めて下から覗き見る姿勢をとる。
急接近してきたハオの顔に、今度は別の意味で赤面する葉をやはりどこか楽しげに見ながらハオは言葉を紡いだ。

「そう。そして今日は…僕たちがこうやって触れ合えるようになった日さ」

実体が無いはずの体からかすかに温かさを感じる。
頬に添えられたハオの手は慈しむように葉をなでたあと深く髪に絡まっていった。
葉は少し恥ずかしそうに身をよじるが、抵抗はせずにおとなしく目を閉じる。
続いて唇に触れた感触は、やはりほんのりと温かかった。

「だから、おめでとう。…いや、ありがとう」
「……ハオ?なんでお礼なんて…」

言うんよ、と続くはずだった言葉は、口に当てられたハオの人差し指によって遮られる。

「葉って悪趣味。わざわざ言わせたいの?」

妖艶と形容するにふさわしくハオが微笑する。
そうすれば、葉が何も言えなくなってしまうのを知っているからだ。

ハオの指はそのままつつっと葉の形のいい唇をなぞる。

うっかり言いそうになってしまった自分らしくない言葉を飲み込むために、そして再び互いの感触を確かめ合うために。
ハオは己の唇を葉のそれにそっと合わせた。



FIN


8/4(ハオ葉DAY)記念SS。
2009/08/04


…完全捏造話←
一応5月12日の葉くんの誕生日はSF後にみんなで地上でむかえた設定デス。。。



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あきゅろす。
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