涼宮ナツキの憂鬱
第五話
一瞬にして色んな意味で親父を除くクラス全員のハートをキャッチした涼宮ナツキだが、翌日以降はしばらく割とおとなしく一見無害な女子高生を演じていた。嵐の前の静けさ、と言ったところか。
スットンキョーな自己紹介から何日か経ったその日。俺はとんでもないことをしでかしてしまう。この時の俺はどうかしていたのだろう、そう信じたい。
「なあ」
俺は涼宮ナツキに話しかけていた。だってよ、涼宮ナツキは黙ってじっと座っている限りでは一美少女にしか見えないんだぜ。たまたま席が真ん前だったという地の利を生かしてお近づきになっとくのもいいかなと一瞬血迷った俺を誰が責められよう。
「なによ」
無理して俺は似合いもしない作り笑いをしてるというのに、こいつは腕組みをして口をへの字に結んで無愛想に俺を凝視する。もちろん話題と言ったらあれしかなかろう。
「しょっぱなの自己紹介のやつ、どこまで本気なんだ?」
「自己紹介のヤツって何」
「宇宙人がどうとかってやつ」
「あんた宇宙人なの?」
「……違うけど」
「なら話しかけないで」
思わずすみませんと言いそうになった。その時に親父が入ってこなければ俺はコイツに睨みつけられ続けていたかもしれない。親父はそんなことを知るはずもないが、一応ありがとうと心の中で感謝しておくことにした。
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