涼宮ナツキの憂鬱
第二十七話
砂けむりが消え、ボールの行方を探した。ボールは古泉一樹のもとを離れ、ただ転々と転がっていた。
「悔しいが、俺の負けだ」
「え?まだ俺攻撃してませんが」
俺は滑り込んだ姿勢のまま古泉一樹を見上げていた。
「いいや。俺からボールが離された時点で俺の敗けだ。喜んでSOS団に入ってあげるよ」
観客席からは歓声が湧いた。ただサッカー部員は落胆してたがな。
すると古泉一樹はナツキの前に立った。
「団長さん、一つ条件つけてもいいかな?」
ナツキはブスッとした顔で答えた。
「何よ」
「サッカー部の試合に俺とあの彼を出してもいいかな?」
「好きにすれば」
「じゃあこれからよろしく頼むよ」
ナツキはフンとそっぽを向いた。おいおい、お前が見つけ出して仲間にしたんだろうが。少しくらい嬉しそうな顔をしろよ。
「君も大変だね」
「何がです?」
古泉一樹は俺のもとで囁いた。
「あの子の相手を一人でしてたんだろ」
「はあ……まあそうですが」
「俺には出来そうもない荒業をやってのけた……君はすごいな」
「古泉先輩もいずれそうなるかもしれませんよ」
「それはそれで大変そうだな」
古泉一樹はくすりと笑って、
「俺のことは一樹と呼んでくれ。先輩と呼ばれるのは嫌いなんだ。君はこの俺を倒したんだから、俺が上の立場にいるのもおかしいだろう?」
「はあ……」
でも先輩は先輩だしなあ。
「で、君の名前は?」
「キョウとでも呼んでください。この学校ではそう呼ばれてますから」
一樹は目を丸くして、
「君があのキョウ君かい?」
「あの」とは何のことだろうか。思い当たるフシがない。
「なるほどねえ」
一樹は一人納得したようだ。なんなんだろう。
「まあよろしく頼むよ」
一樹は肩をポンと叩いてそう言った。さっきのはいったいなんなんだろうか……
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