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涼宮ナツキの憂鬱
第十一話
眠い。とてつもなく眠い。
ゴールデンウィークが明け、夜更かし癖がついた俺には辛い一日。まだ五月なのに汗をたらしながらハイキングコースを歩いていた。
「よっ、キョウ」

後ろから肩を叩いたのは谷口だった。ブレザーを肩に引っ掛け、ネクタイをよれよれに結んだニヤケ面で、

「連休はどっか行ったか?」

「親父の田舎に家族とな」

「しけてんなあ」

「そういうお前はどうなんだ」

「ずーっとバイト」

「あんま変わんないじゃねぇか」
「高校生にもなってジジババのご機嫌うかがいに行ってどうすんだ」

「これでも楽しみがあんだ。親父の妹さんはかわいいんだ」

「マジかよ〜」

ちなみにキョウと言うのは俺のことだ。最初に言い出したのは親父で、ある年の正月に俺はおみくじで凶を引き、おもしろがって言っているうちに定着した。学校でもそう呼ぶもんだからすっかりこの名前が浸透したみたいだ。中学ではんなことなかったのにな。

谷口の妄想をよそに、俺は坂道を登り続ける。髪の中からしみ出す汗がかなり不快だ。俺は谷口の質問攻めをスルーし、谷口は夢の世界から抜けないまま、ようやく俺は学校に着いた。

教室に入ると涼宮ナツキはとっくに涼しい顔をしていて、今日はツインテールだから水曜かと認識して椅子に座り、そして何か魔が差したのだろう。それ以外に思い当たるフシがない。気が付いたら涼宮ナツキに話しかけていた。

「曜日で髪型変えるのは宇宙人対策か?」

「いつ気付いたの」

路傍の石に話しかけるようにナツキは言った。

「ん……ちょっと前」

「そう」

ここでかなりの沈黙があった。時間的には1分に満たないのだろうが、しばらくしてナツキは、

「あたし、あんたとどっかで会ったことある?ずっと前に」

と、訊いた。

「いいや」

と、俺は答え、親父が軽快に入ってきて会話は終わった。

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