短編
2010年ホワイトデー(紅勾)
口元まであと1p
※現パロ
「勾」
「なんだ騰蛇、ん?」
何をするでもなくぼんやりとテレビを見ていた勾陣は振り向いた瞬間、自分の手のひらに置かれた包みを見て不思議そうな顔をする。
「…作ったんだ、だからやる」
「へぇ、クッキーか…でも私が貰ってもいいのか?後で昌浩たちも帰ってくるんだから一緒に…」
「いや、勾の為に作ったんだ…だから心配するな」
「私の?……騰蛇、今日は私の誕生日とかではないぞ?」
「それくらい知っている」
「じゃあいきなり何なんだ、こんな綺麗にラッピングまでして…何かの記念日か?」
そこまで聞いて紅蓮は、昨日朱雀に言われた事は当たっていた…と心の底から実感するのだった。
「騰蛇、なんか甘い匂いがするが…何を作っているんだ?」
「朱雀か、一応クッキーを作っているんだが…うまくいかなくてな」
「あぁ、勾陣にか」
「ま、まぁ…」
紅蓮が答えると朱雀は面白い、といった顔で二回目のクッキーの材料を量っている紅蓮を見ながら言った。
「騰蛇よ、ホワイトデーにそれを贈るのはいいが肝心の勾陣が気づかずに空振り…なんて事態にならないか?」
すると、がしゃ!と量っていた材料をひっくり返して騰蛇が固まった。
そんな分かりやすい同胞に朱雀は苦笑しながらも続けた。
「バレンタインも結局忘れていたんだろう?勾陣は」
「ああ、しかも一週間後位にチロ●チョコを一個貰った…本人はバレンタインなんて何も意識していない状態で」
言いながらなんだか白くなってきているような気がする紅蓮に朱雀は涙したくなるのと同時にもう一人の同胞の残酷な所業を知ってゾッとした。
「で、でもそれだけにお返しを作るなんてお前も結構律儀だな!大丈夫だ!きっと勾陣だって喜ぶさ」
「そうか?」
「ああ!…そうだ、俺も前に天貴に作ったことがあるんだ、よければ教えるが」
「本当か?ならば頼む」
「おう、任せておけ」
…思えばあの手伝いは俺への励ましに近かったんだろうな、と心の中で紅蓮は一人呟いた。
「騰蛇、聞いているのか?」
「え?あ…すまん聞いていなかった」
「はぁ…だから、このクッキーは今日がホワイトデーだからか?と聞いたんだ」
「え…勾、今日がホワイトデーだって知らなかったんじゃ…?」
「まぁな…だがほら、今テレビで特集をやっているぞ」
勾陣が指差したテレビを見るとそこには何やら女性が好きそうなお菓子や雑貨の特集の画面が映っていた。
「で、どうなんだ騰蛇?」
「まぁ、一応チョコと呼べる物を貰ったからな…その礼だと思ってくれて構わない」
「そうか、…正直お前に何をやったか覚えてないんだが、お前がそう言うならありがたく頂くよ。今開けてもいいか?」
その問いに紅蓮は頷く。
しかし、
いざホワイトデーのお返しだと確認されるとどこか恥ずかしいものがあるな、とも思っていた。
「…頂きます」
律儀にそう言って勾陣はクッキーを一つ、口に運んだ。
「うまいか?」
「ああ、甘すぎなくて美味しいよ…なんだ、お前は味見してないのか?」
「味見は朱雀がやった。あいつもうまいと言っていたから俺はしなかったんだ」
そこまで紅蓮が言うと勾陣はクッキーを紅蓮の口元へ差し出した。
「こんなに美味しいんだからお前も自分で食べてみたらどうだ?」
そしてさらにクッキーを近づける。
紅蓮は困惑した。
クッキーは自分の口元まであと1cm、というところまで近づけられている。
これはそのまま食べさせてもらう…という形でいいのか?
いや、口まで差し出されているんだからここで受け取り直したら逆に意識し過ぎているような感じがするしな…
紅蓮の心の中で小さな葛藤のようなものが繰り広げられる。
勾も勾だ、無意識なんだろうがこれって結構傍から見たら結構恥ずかしいことなんじゃないか!?
と、差し出されたクッキーに思い悩むこと十数秒
「時間切れ」
「あっ!」
勾陣が紅蓮の口元に近づけていたクッキーを自分の口へ放り込んだ。
「考え過ぎなんだよ、お前は」
「な…!」
まるで、自分の心の中を読んでいたような口ぶりでそう言われた紅蓮は焦る。
「まさか勾、お前分かっててやってたのか!?」
「さぁ?なんのことだ?…と、出かける時間だ…クッキー、ありがとう」
そう言って勾陣は騰蛇の横をすり抜けてドアへ向かう
。
そうして部屋から出て行く前に一言、言った。
「騰蛇、食べさせてもらいたいならまたコレ、作ってくれればいつでもやってやるからな」
じゃあ、行ってくる。
「っ!!勾の奴!」
そうして部屋には顔を赤くした紅蓮だけがただ一人固まっていた。
終
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