短編 消え行く世界にありがとう(紅勾) ※死ネタ 世界とは、小さいものだ。 まぁ、地図なんかを開いてみれば小さいなんて、言えないのだろうが、 それでも、小さい。 私の世界は。 最初に私たち神将を従えた主が消えてから、どれくらいたったのか。 人々は夜の恐さなんて忘れて、今や明る過ぎるくらいの夜しかない。 そんな夜に、弱い妖はただただ逃げるだけだ。 逃げて逃げて、けれどいつかは消えてしまう。存在していた意味さえも消し去って。 そんなことを考えたのも昔のことで、今はもう、本当に神や妖の類は所詮「お話の中」のことでしかない。 いや、それさえもない、存在自体がないんだ。 そうなってしまったことに気付いたのは、消えていく自分の身体を認めた時とは、まったく、私は気付くのが遅いな。 そうやって少し視線を向けると、お前の怒ったような、けれど悲しそうな目が私の視界に入ってきた。 ああ、もう、何て顔をしてるんだ。 消えてはいるが、別に痛くなんてないぞ? そんな間の抜けた、自分たちの主のような返事をしても、奴の表情は変わらない。 本当なら私も怒って、悲しんで、この時を迎えるのだろうと思っていたが、いざその時が来てみるとそれは真逆だったことが分かる。 私の心は驚く程穏やかで、何も恐れてはいない。 …本当は何故かだか知っているんだ。 お前は分かるか? と、問うても、騰蛇は首を横に振るだけで答えない。 まったく、ちゃんと考えているのか、たわけめ。 私が、何も悲しいとは思わない理由はな、 私の世界にお前が居てくれたからなんだ。 小さい小さい私の世界 けれど満たされていたその世界は 私にとって幸せだった。 最後まで満たしてくれてありがとう 終 5月26日UP 日常再録 修正100813 [*前へ][次へ#] |