短編 月の雫を掬う(青后) 「…ごめんなさい、私が頼りないせいで、青龍に怪我を…」 「あやまるな、と…俺はさっきから言っている。それに、この程度の傷なんてすぐに癒える。」 「でも、」 「うるさい」 「ごめ……っ!」 不意に、傍らに居た天后の頬に雫が伝った。 けれど、それ以上雫が伝わることはなく、天后は口元をきつく結んでいた。 「…天后」 そんなつもりはなかった。 そう思った時にはもう遅い。 あまり仲間と会話なんてしない青龍にとっては、この状況で天后にかける言葉が見つからない。 別に今だって、天后に対して怒りの気持ちなんて微塵も存在していないし、怪我だって十二神将闘将である自分はすぐに癒える。 …そう言いたかったのだ。 伝えたいことは、沢山ある。 しかし、それを自分は言葉にすることができない。 そんな自分に舌打ちしながら、青龍は言葉の変わりに天后の頬に伝う雫を掬った。 月の雫を掬う 「…青龍」 「…なんだ」 「ありがとう、ございます」 「別に、」 そう言って顔を背けた青龍に、天后は優しく微笑んだ。 終 4月29日UP 日常再録 加筆修正100813 [*前へ][次へ#] |