短編
七夕(佐かす)
この季節特有の蒸し暑さに私はうんざりしながら笹に飾り付けをしていた。
「よし、こんなものか」
先程書いた短冊も飾り、離れて全体の出来を見る。
………なかなかいい出来だ。
あの方もお喜びになってくれるだろうか…?
「あっれー?珍しい事してんじゃないの。せっかくの七夕を雨でぶち壊す気?」
「……またお前か」
「ちょっと、そんなにあからさまにガッカリしなくてもいいでしょー!?俺様傷付いちゃうよ…」
「勝手にしろ」
私はそう言って視界にアイツが入らないようにした。
「酷っ!………どれどれ…『謙信様のお側に居られますように』?」
「な゛っ!?」
振り返ると、佐助が私の短冊を読んでいた。
「貴様…っ!!」
ヒュンッ!!
「おわっ!!っとと…ちょ、危ないでしょーが!」
「うるさいっ!お前が悪い!」
「だからってクナイはないでしょーよ!俺様じゃなかったら今頃どーなってたことか…」
そんな事を言って、さり気なく自分の事を自慢しているコイツに苛ついて、私はさらにクナイを投げた。
「げっ!ご、ゴメン!ホントすいませんでした!」
「だったら大人しく刺されろ!!」
「それは嫌だって!ほ、ホラ、せっかくの七夕なんだし女の子らしくしなって!願いが叶わなくなっちゃうよ!!」
「うる、さいっ!!」
「痛だっ!!」
軽口をたたいてクナイを避ける佐助に、私は回し蹴りを食らわせた。
「おー痛ってぇ〜!今本気だったでしょ!?」
「しぶといヤツだな」
「あのさ、すぐクナイ投げるとか止めてよね〜…」
「フン…用が無いならさっさと失せろ」
「まぁまぁ、そんな事言わずに〜『絶対願いが叶う短冊』、欲しくない?」
「はっ?」
「いや〜任務先で手に入ったんだけどさ、俺様こーゆーの苦手だし、かすがにあげようと思ってね♪」
そんな物、本当に存在するのだろうか?
でも、もし本当なら…
私は勝手に喋り続けるコイツの事よりその短冊の事で頭が一杯だった。
「…と言う訳でさ、これはその中でも恋の願いを叶えるのにピッタリらしいんだよね」
「何っ!?」
「あ、欲しい?欲しい?じゃあ、はい、ここに名前を書くんだってさ」
「わかった!…」
これで私もあの方と…!!
「よ〜っし!書いたね!はい、どーぞ」
あぁ、早く飾らねば!!
……………………
「きっ、貴様っ!!」
「あちゃー、やっぱ気付くか…」
「何なんだ!このふざけた願いはっ!!」
「え〜、かすがの願いを俺様が代筆したのであって……ぐあっ!!」
「うるさいっ!今ここで始末してやる!!」
「うわっ、それは勘弁……じゃ、じゃーねー!!」
そう言うとアイツは姿を消し去って行った。
逃げ足の早いやつだ…
残った短冊をもう一度見る。
短冊には、
『佐助と両思いになりますように』
と書いてあった
全く、どこまでもふざけたやつだ。
その後、その短冊は名前だけ上から『謙信様』に書き替えられて、飾られてあったとか……
終わり
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