小噺 キシリトールガムの秘密(元隆) 「元希サン、これ」 「あ?」 練習後のロッカー室、着替えを終わらせ一息ついていた榛名の前に、しかめっ面をして目を合わすことなく、手を突き出した隆也が握っていたのはキシリトールガム、一本。 「なんだよ」 普段2人は練習が終わると、特にこれといった会話もなくそれぞれの家路に着く。 たまに途中まで一緒に帰ったとしても、大体はポツリポツリと途切れがちに話をするか、投球練習についての話をして、結局大喧嘩して別れるかのどちらかだ。 そんな2人、まして隆也が話しかけてくることは滅多にないことで、しかも何かと思えばガムを差し出している。元希は隆也の意図がさっぱり分からず、首を傾げた。 「あげます」 「だから、何で」 話したと思えば言うことが端的で分かり難い。これも短気な元希のカンに障る原因の一つなのか。 睨みをきかせた元希に、隆也は少したじろぐ。 「…だからやるって言ってんでしょう!!」 「……はぁ?」 顔を真っ赤にしてよくわからない事を早口に言い切ると、バンッとドアを開けて走っていった。元希が機嫌の悪い日でなかったのが幸いだ。 「なんだアイツ…」 マジで意味わかんね、と呟きながら渡されたガムを眺めた。 ーーーーーーーーーーー 理解したのは、隆也が部屋から飛び出して行った後だった。 先輩に「おめでとう」と言われ、今日が何の日かを思い出したからだ。 「あ、誕生日…」 そういえばそうだった。元希の頭の中は、今度の練習と帰った後のトレーニング内容の事でいっぱいで、自分の生まれた日などすっかり忘れていた。 そもそも、隆也が自分の誕生日に何かをくれるとは思いもしなかった。 (しかも、ガムだし。こんなんでわかるかっつーの) 過剰だとは自覚しつつ、歯も大事にしたかった元希はよくガムを持ち歩いていたので、自然と印象に残ったのかもしれない。 「それにしても、コンビニかよ…」 誰かから急に聞いたのか。普段からそこまで金を持ち歩かない隆也に買える物は少ない。 だからといって安すぎるような気もするが、それでも普段からは想像もつかないような行動だ。 苦笑しつつ近所でお馴染みのコンビニのロゴが入ったシールを適当に剥がし、人一倍生意気で不器用な捕手の事を考えながら、ガムを一枚取り出した。 ーそれ以来、元希の持ち歩くガムの種類はなんとなく固定されている、らしい。 ーーーーーーーーーーー END 相変わらず短い上にわかりにくくてすみません…!!この前は暗すぎる元隆だったので、少し趣向を変えてみたのですが… うわあぁーやっぱり駄目でしたね!!← でも…こんな2人も好きなんです。(主張) 相変わらずの駄文を読んで下さってありがとうございました!! [*前へ][次へ#] |