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小噺
monopolize(島迅/敗戦後)












「じん、迅」


がらんとした部室、ロッカーにはもう3年生の名前はない



夏の長い時は過ぎ、あっという間に暗くなる空から差し込むわずかな光の中で、オレの後ろから聞こえる慎吾さんの声は酷くかすれていた。


他に何を言うわけでもないこの時間は、慎吾さんが練習後にふらりとやってくるたびに繰り返されている。







「慎吾さん、」




そしてオレは、見つかることのない繋ぎ言葉を捜しては、何もできないままただじっと後ろにいる慎吾さんの言葉を聞くだけだ。








どうしようもないのだ。

こうして毎日会っても、言葉を交わすことはない。











何故だろう、いいたい事はお互いたくさんあるはずなのに。









「慎吾さん、」





その先の言葉を紡ぐことが





それを全部言ってしまったあとの「終わり」
が、酷く怖い。





もしかして慎吾さんも同じなのだろうか。

それを聞くことさえもできない。






今まで「オワリ」が来るなんて考えたこともなかったオレは、「オワリ」の後を酷く恐れているみたいだった。














―やめればいい






怖いなら、先を見たくないのなら。



もうイヤだと言って、この意味の無い時間を放棄してしまえば。




そうしていつものように先輩と後輩として接していけば。




全て,元通り。









「―迅、」







―しかしオレはそんなことも出来ずに今もこうしてやり場のない時を過ごしている。







もう満たされなくなってしまった。

ずっと前、とっくのとうに、「先輩後輩」なんていう関係だけでは満たされなくなってしまった。










だったら。






ずっとこの人が離れていかないように。


何も言わないで、ただこのまま。





この声がいつまでも自分だけの、モノでー…

















「慎吾さん、」










―それは子供じみた独占欲。








「慎吾さん、慎吾さん」















何かに囚われたかのように、その人の名前だけを呟いた。







End.

ただ、恐れてた.


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