小噺
満ち満ちて円く(花+田、恋人未満)
初秋の風は冷たく
月明かり煌々
そしてなぜか
目の前には満開の笑顔の君
満ち満ちて円く
『…なんで?』
さんざん考えた末に出た言葉は、結局その一言に尽きた。
謎のメール(普段からコイツの言動は大抵謎だ)が来たのはちょうど10分前。
それを見たのは5分前。
文面は『空!』一言。理解するのに20秒。窓を開けて、あれ今日なんだと気付くまで15秒。
それから
家の下の人影に気付いて、急いでドアを開けるまで15秒。そして目の前の笑顔に混乱すること、たっぷり10秒。
そして今に至る。
俺の声が届いてんだかないんだか、目の前は相変わらず全開の笑顔。
『…何でここにいんだよ』
『にひっ』
改めてもう一度問えば、返事がわりに楽しそうな声一つ。
毎度の事ながら、何考えてんのか全然わかんねェ。
楽しげな瞳はそのままで、試すように話しかけてくる。
『月』
『は』
『月スゲーから、散歩行かね?』
返事を待つように俺を除き込む彼の真意はわからないまま、俺は真夜中の散歩に付き合うことになった。
さく さく
さく さく
足元の芝生は細かい氷を砕くように軽い音をたてる。
近所の汚い河川敷を、楽しそうに揺れる小さな肩の半歩後ろ分、距離をとって歩く。
時折聞こえる、切れ切れのメロディーは知らない歌。
コイツの考えなんて、
どうせ自分には検討もつかないのだからと、
半ば考えることを諦め、
近所でもこんなに星が見えるんだな、
とか、
随分肌寒くなってきたもんだなとか、
とりとめのないことを思っていた。
だからコイツが立ち止まっていたことにも、そんな俺を見ていたことにも、反応が遅れた。
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