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03:手を取った




この気持ちは何だろう。




最近、自分の中に不思議な感覚がふとあらわれるようになった。


いつからだろう。


ご飯を作った時?ううん、もしかしたらはじめから。





懐かしいような、くすぐったいような、締めつけられるような。




こんな気持ちを、私は知らない。





















「セツカーー…。」

「んー?なぁに?」


ピオニーに、ぐてっと寄りかかられる。

最近はこんな風にスキンシップを取る事が多い。


寒いから自然とそうなるんだろうか。




でも決まってこういう時、次にくる言葉は、

「腹ヘった…。」


このあいだのアレが結構ヒットしたらしくて、度々ねだられる。

そのたびに緊張しながら作ってしまうんだけど。


























「あー、今日もうまかった!」満足げに伸びをしながらあの笑顔で言われる。


作るたび、食べ終わるたびにこんな表情してくれるものだから、ついまた見たくなってしまう。

…私も何かいろいろ末期だなぁ。

自覚は、ある。







「そうだ。今日泊まっていっても良いか?」

「────へ!?」


さも普通にそう言うピオニーは、世間話のように私に話をふった。


泊めるって、ピオニー…を?恐る恐る聞いてみる。



「おう。今日と明日、丸々暇を取ってきたんだ。…セツカを連れて行きたいところもあるからな。」



暇を取ってきた。


最近、話の中に度々織り込まれた言葉が何か妙に引っかかる。



でも……、


『セツカを連れて行きたいところもあるからな。』


……嬉しい…なぁ。








そんなこんな、私はピオニーの宿泊を許してしまったのだった。



























いつもよりも長く話が出来るのは、とても幸せだった。


いつもならそろそろ帰ってしまう時間になっても、ずっと他愛のない話をした。




そしてやっぱり、このセリフがくる。


「そろそろ腹がへる頃だな。」

「もう?…ふふ、話してただけなのに。」


動こうが動かなかろうが、時間が経てばピオニーのお腹はすくらしい。


「じゃあご飯の用意するね。」椅子をひいて立ち上がり、キッチンに向かおうと体をむける。……と。



キュッと掴まれた袖を見た。

掴んでいるのはもちろんピオニー。


「ピオニー…?」

「俺も一緒に作るぞ!…良いか?」


良いか、と聞きながらその瞳は作る気満々と語っていて、これまた了承してしまった。


私、ピオニーに甘いかも。




そう思いながら予備のエプロンを差し出して、棚からボウルやバットなどを出していく。


せっかく作るのなら、少し手間のかかるものが良いかな。

なんて考えながら。




「セツカー、この肩ひもはクロスになって良いのか?」


なんて隣から聞こえてふと横を見るとピオニーがエプロンに絡まっていた。………え?エプロンって絡まるの?



結局、ピオニーに後ろを向いてもらってエプロンを正しく着せた。

…エプロン、着付けたの初めて。


「ピオニー…、エプロンつけた事ないの?」


まさかこんな出だしでつまづくだなんて!

確かにピオニーは作るよりは食べる側専門のような気がするけど。


「まぁあまりないな。だがセツカとなら作ってみたくなった。」

「………!」


こら。また不意打ちだぞ。

またちょっとキュッと締め付けられたじゃない。

それに顔があつい。火が出そう。


それらに気を奪われないように、ピオニーから視線を逸らして料理に専念する。


負けてなるものか。






















豚肉をすりつぶしてミンチ状にして、その中にニンニクや生姜、ニラ、キャベツ、時々シソなんかも混ぜてみる。


それを小麦粉で薄く練ったものにくるむ。



この作業が、一番楽しかったりする。



「ほら見てみろこれ!うまく形作れたろ!」


嬉しそうに見せてくるピオニーの顔にはしっかりと小麦粉がついている。


「ふふ、私は少し形変えてみたよ。」



可愛らしく、小包みたいに具を包んだ。

バットには様々な形のものが並んでいる。




それを私が焼いて、ピオニーがお皿に盛り付ける。


全部焼きあがって様子を見に行ってみると、何とも男らしく盛り付けがされていて思わず小さく吹いてしまった。








お互い向かい席について、口にいれた。

味はもちろん、


「うまいっ!」

「おいしい!」



一人で作った時よりも2倍も3倍もおいしかった。

ピオニーと一緒に作ったからかもしれない、とも思った。





















洗いものは全部私に任してもらった。


そのうちにピオニーにはテーブルをふいてもらったりお風呂に入ってもらったりした。



こんな時間になっても、まだこの屋根の下にはピオニーがいるんだ。

再確認して、また心がくすぐったくなる。



最後の一枚のお皿を洗い終わって濡れた手を乾いたタオルでふく。

…何だか静かだな。お風呂入った?



「ピオニー…?」


テーブルのところまで戻って、言葉を飲み込んだ。



ふきおえて綺麗になったテーブルの上に突っ伏したピオニーがいた。

投げ出された腕からは穏やかな寝顔が見えた。





その時、あの気持ちの意味がわかったような気がした。


ふわりと笑みをこぼす。


今日はいつもより頑張ったから疲れちゃったんだね。



「…お疲れさま、ピオニー。」


明日目が覚めて一番に見るものは、きっとキミなんだろうな。





















今日という日の最後に気付いた自分の気持ち。

私は、私の恋心と









これから、よろしくね。そして一緒に頑張ろう。






あきゅろす。
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